そこで今回はクラウドの要とも言えるIaaSプロバイダの変遷を分析し、今後を考えてみようと思う。クラウド全体を俯瞰すると、現状は第1ラウンドから第2 ラウンドに差し掛かっているようである。Geoffrey Moore氏の有名なマーケティング書「チャズム-裂け目を越える-Crossing the Chasm」でいうところの初期市場(Early Adopters)から主力市場(Mainstream Market)に移りつつある。氏はユーザを3つのセグメントに分ける。最初が「技術革新を好み、物事に興味深く、すぐに使いたがる人たち」 、次が「主力市場の人たち」、最後は「何事にも保守的な人たち」だ。これらの層によって技術の受け入れ方は違う。早いもの好きの人たちは技術の興味だけで使い始めるが、主力市場の人たちを動かすにはマーケティングの力が欠かせない。この層が動き出せば技術は本物になる。そのためには、関連する企業や団体が力を発揮し、裂け目(Chasm)を越えなければならない。
IaaS プロバイダを見ると、Facebookがクラウドに参入するのではないかという噂もあるが、市場には大方のプレイヤが出揃った。そしてはっきりしていることは、現在、核となるプレイヤを中心に統廃合が進んでいる。彼らをどう区分するかは異論のあるところだが、ここでは便宜上、①メーカ系としてIBM、HP、Dell、Ciscoなど、②キャリア系はAT&T、Verizon、CenturyLinkなど、③独立系のプロバイダやデータセンタはGoGrid、Rackspace、Terremark、Joyent、Tir3、Dimension Data、CSC、SAVVIS、SunGrid、SoftLayer、Virtustreamなど、④インターネットやIT系ではVMware、 Amazon、Google、Microsoftなどに分けて説明を加えた。
=第1ステージ:Rackspaceなど新興勢力がリード 2009~2010=
Amazon Web Services(AWS)が登場したのは2006年のこと。その後の活躍は衆目の知るところである。しかしながらクラウド初期の2009~2010年(下図)を見ると、AWSは決して良いポジションではなかった。この時期目立つのは新興勢力の台頭だ。彼らは各々特徴を持っていた。IaaSとは言っても、JoyentはSolaris関連を領域とし、GoGridはいち早くWindowsを手がけ、OpSourceは3rd Party Applicationを得意としていた。その中にあってRackspaceは抜けた位置にいた。RackspaceがAWSと並ぶクラウドの初期プロバイダであったことはもとより、2010年7月、NASA AmesとOpenStackを立ち上げたからだ。あの時の衝撃は凄かった。もうひとつ、米キャリアが目立っていたのもこの時期だ。AT&Tは2006年にASP最大手のUSinternetworking (USi)を買収、Verizonも企業向けホスティングからクラウドに参入した。こうしてクラウドが動き出し、その有効性と将来性が解ると、時代の流れを読んだ多くのプレイヤが動き出した。ここまでが第1ステージである。
- Amazonは良いポジションにいなかった。
- 個性ある新興勢力のプロバイダが市場をリード。
- RackspaceがNASAとOpenStackを始動。
- AT&TとVerizonが既存顧客を引き連れて参入。
続く2011~2012年の第2ステージでは、ICTに象徴される情報と通信の流れの中でキャリアの生き残りを賭けた買収劇が相次いだ。AT&TによるUSi買収の後、2011年1月、VerizonがTerremark Worlwideを買収($1.4B)。さらに両雄に挑戦を仕掛けたのは現在3番手のCenturyLinkである。米キャリアは本来2強プラスQwestだった。この順位を変えたのは2010年4月、業界5位のCenturyLinkによる3位Qwestの買収だ。こうして大きくなった同社は2011年4月、大手データセンタのSAVVISを買収($2.5B)してクラウドに参入。 NTT Holdingも2010年7月、世界展開するデータセンタDimension Data(南アフリカ本社)の公開買い付けを発表、同10月に子会社化。さらにNTTは翌2011年7月、主要投資先であったOpSourceをDimension Dataに買収させることを承認して統合させた。結果、データセンタ業界はクラウドの草刈場と化し、その後もこの流れは続くことになる。詳細は米キャリアとデータセンタ業界参照。そして、この急激な流れの中でAmazonがトップに躍り出た。
- 米キャリアの草刈場となったデータセンタ業界。
- Amazonがクラウドのリーダに。
昨年から今年にかけて市場のプレイヤはさらに整理され、一段と状況が鮮明になった。その中で特筆はAmazonだ。断然トップ、それも独走態勢に近い勢いである。次にMicrosoftの躍進がある。同社は2012年12月AzureのIaaSを発表、トライアルを経て昨年4月に正式にリリース(米国)した。この流れが効果的だった。さらにIBMも動き出した。IBMは昨年3月のPulse 2013カンファレンスでOpenStackが同社のクラウド戦略の中心になると発言。しかしその後、態度を変えて、同6月にはSoftlayerを買収。そして全面的に乗り換えると発表した。この買収による相乗効果はまだ軟弱だが、今年はどうなるのか要注意だ。前述のCenturyLinkのフットワークは依然として良い。傘下のSAVVISが2013年6月、PaaS/SaaSプロバイダのAppFogを買収、さらに同11月、CenturyLinkはTier3も買収して猛チャージ中だ。もう2つ要注意企業がある。ひとつはVMware、そしてGoogleだ。VMwareは昨年5月、 一般企業がvShereで構築したプライベートクラウドとハイブリッド接続が出来る同社のパブリッククラウドvCloud Hybrid Serviceを発表。また、GoogleはこれまでのPaaS対応のApp Engineに加え、昨年4月、IaaSのGoogle Compute Engineを正式リリース、共に追撃体制に入った。
- Amazonが断然市場をリード。
- IBM/SoftLayer連合が巻き返しへ。
- CenturyLinkが依然買収攻勢。
- OpenStack普及に賭けるRackspace。
- VMwareがIaaS市場に参入、Googleも追撃へ。
こうしてみると、クラウド各社は第1ラウンド最後の生き残りを賭けた戦いの最中にある。或る報告では2015年までにプレイヤの1/5が姿を消す。先頭を走るAmazon、それを各社が追う展開だ。メーカ系ではSoftLayer買収で新しく生まれ変わったIBMがどれ位善戦するのか。Windowsサーバで実績のあるMicrosoftがどこまで伸びるのか。キャリア系ではVerizon/Terremark組よりCenturyLinkに勢いがある。Rackspaceは多くの支援企業を集めたOpenStackを普及させることが出来るのか。そしてIT系では共に実力のあるVMwareとGoogleが周回遅れで参入してきた。特にGoogleの追撃がどうなるのか目が離せない。これから始まる本格市場開発の第2ラウンドでは熾烈な価格競争が待っている。