「AWSはiOSでOpenStackはAndroidのようだ」と言う人がいる。
上手い表現だ。考えてみればAmazonは多くのサービスを独自開発してきた。一方、OpenStackはオープンソースの徹底した公共プラットフォーム化を目指す。Amazon Web
Serviceがクラウド市場をリードするiPhoneのようだとすると、果たしてOpenStackはクラウドのAndroidになれるだろうか。
=企業貢献度にみる各社の戦略=
年2回OpenStackのアップデートを行うメンバー各社の熱い思いは変わらない。2012年、OpenStack Foundationが設立され、より民主的な組織運営が進んだ。作業のコントリビュータには沢山の個人デベロッパー、企業メンバーにはBrocade、Cisco、Dell、
EMC、HP、IBM、Intel、Juniper、NetAppなどのメーカーを始め、Canonical、Red
Hat、SuSEなどのLinuxディストリビュータ、IT企業からはYahoo、VMware、PayPalなど、さらにRackspaceを筆頭にVirtrustream、Mirantisなどの関連スタートアップが集まっている。現在は次期版Junoに向けた開発が急ピッチだ。図はJuno/OpenStackに関する各社の貢献度を示す。どの会社(さらにはどのエンジニア)がどの分野でどの程度貢献しているかはStackalyticsで全てが公開されている。ここを見れば各社の戦略もある程度想像できる。例えばOpenStackの4番目のリリースだったDiabloではRackspaceの貢献度は約3/4(78%)、つまり彼らの仕事が殆どだった。しかし5番目のEssexでは半分(51%)になり、次のFolsomでは1/4(25%)に、さらにGrezzlyでは1/5(20%)と同社の比重は下がってきた。これは言い出しっぺの企業が頑張らなくても、参加各社が各々の戦略に沿って開発を支援しながら製品化を進めているからだ。現在、Junoで最も貢献度が高い会社はHP。彼らは5月にHP Helionを発表した。これはOpenStackベースの同社クラウドのリブランドとして$1B(約1,000億円)を投入するプロジェクトである。その前はRed Hatだった。同社は昨年夏、Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platformを発表。この発表を受けて、昨年10月にリリースしたHavanaではRed Hatが最大のコントリビュータだった。 IBMについてもしかりだ。同社の貢献度はGrizzlyでの15%からHavanaでは13%となり、Icehouseでは10%、現在開発中のJunoでは7%と減少している。これは従来のOpenStack重視からSoftLayerへの路線変更と見事に一致している。
=エンタープライズへの普及が始まる=
ともあれ、OpenStackの開発は順調だ。これからの課題はエンタープライズ市場への浸透である。ベンダーからはOpenStackディストリビューションも始まった。今年4月にリリースしたIcehouseは9番目のメジャーバージョンとして本格的な普及を目指している。そんな矢先、今年4月2日、Wall Street Journalからビッグニュースが流れた。報道によると、OpenStackベースのCloud OS MirantisとスエーデンのEricssonとの間で5年間総額$30M(約30億円)の契約がなされたのだ。勿論、これはOpenStack関連では過去最高の取引金額だろう。この契約でEricssonは携帯電話ネットワークのバックエンドインフラを構築する。これより早くOpenStackを用いてプライベートク
ラウドを手がけた企業も沢山ある。その中のひとつがサンフランシスコを本拠とする大手銀行のWells Fargoだ。
日本はもとより米国ではIT部門のコスト管理は厳しく、仕事の多くは外注化の方向だ。それでも尚多くの銀行はIT業務を自営したがる傾向にある。勿論、マ
ネージドホスティングによる外部委託の方が廉価であることは解っている。この課題への回答がプライベートクラウドだ。リーマンショック後、米金融界の混乱の中、Wells FargoはWachoviaを救済合併。そして3年がかりでシステムを統合した。この中でOpenStackベースのクラウドを採用。サポートに役立ったのはHP Cloud
Servicesだ。HPもこの仕事で力をつけた。つまりこれまでのHPクラウドはWells
Fargoと共に歩んできたといっても過言ではない。他にも直近ではWalt Disneyのパイロットプロジェクトが動き出している。このDisneyのコンテンツ保管用プロジェクトではオブジェクトストレージのOpenStack Swiftを使い、たった3ヶ月でシステムを立ち上げた。
=普及前夜となるか=
5月13日、OpenStack FoundationはOpenStack Summit 2014(Atlanta)で、OpenStack導入に関するトレーニングやコンサルテーション、プロバイダ、各種ディストリビューションなどを纏めたOpenStack Marketplaceの運用開始を発表。いよいよこれからがOpenStackにとって正念場である。しかし、状況は良い。幾つかのプロバイダからOpenStackベースのクラウドが提供され、各種ディストリビューションの配布も始まった。2012年、最初に登場したのはUbuntu OpenStackとSuSE
Cloudだ。次がRed Hat Enterprise Linux OpenStack Platform(RHEL
OPS)、リリースは昨年7月だった。最新版はIcehouse対応のRHL OPS5、次期JunoはRHL
OPS6となる予定だ。年間サブスクリプションは無制限利用のGuest
OSを含む場合と含まない場合、さらにサポート種別により「Standard(ビジネスアワー)」と「Premium(24H)」がある。価格はGuest
OSなしのStandardサポートでは$2,149/socket-pair/year、Guest
OSありのPremiumサポートでは$4,499/socket-pair/yearとなる。これに対して後発のHP
Helionは現在無償Community版のみが利用可能だが有償の商用版は8月中にリリースが予定されている。さて価格はどうか。RHL
OPSは”socket-pair”が単位、しかしHP
Helionでは物理サーバが単位となり、$1,400/year/serverだ。これには「Foundation Care
Support(ビジネスアワーサポート)」が含まれる。24Hサポートへのアップグレードオプション有。さらに複数年利用割引やボリュームディスカウントがある。Guest OSは別途。また商用版にはHPが開発したSDN Controllerと分散ストレージStoreVirtual VSAが含まれる予定だ。
時はまさにOpenStackの普及前夜である。