以来、2ヵ月半が過ぎた。そこで今回はRackspaceの今後を占ってみようと思う。 Rackspaceと言えばAWSを追ってすぐにクラウド事業を開始し、その後NASA Amesと共にOpenStackを始めた会社である。その老舗がMorgan Slanleyと契約し、今後の出口戦略オプションを検討する事態となった。こうなった直接の要因はAmazonとGoogleの値下げ競争だが、もうひとつはこのままでは事業の拡大が難しいという事情がある。このあたりはAnnual Reportを見ればすぐに解る。 右図のように同社売り上げ(Net Revenue)は比較的順調だ。しかしよく見ると昨年度の伸び率は17%とやや鈍化、ただServer台数は伸びている。収益(Net Income)は昨年度18%下がり、これにともなって投資効果(Return on Capital)も落ちた。つまり市場の価格競争が原因でユーザは増えても収益は上がらず、設備投資が厳しい状況が見て取れる。
=Rackspaceという会社=
Windsor Park Shopping Mall |
=考えられるシナリオ!=
さてRackspaceはどうなるのだろうか。米メディアではこのところ様々な報道が続いている。ここではそれらも参考にしながら、彼らはExitにあたり、何を望んでおり、その相手となる企業はどこなのか、推測してみようと思う。まず彼らの考えている要求とはどのようなものか。
- この会社のDNAが引き継げるか。つまり彼らに経営の自由度が残るか。
- OpenStackへの理解は高いか。
- プライスタグ(買収額)はどの程度か。(Market Valueは$4-5B)
- この取引のビジネスミックスは将来の事業拡大に貢献するか。
考察にあたり、分野を幾つかに分けてみた。HWベンダの中でRackspaceに興味のあるところはどこか。Dell、HP、(そしてIBM)あたりだ。まずDellが一番有望だと言う人がいる。2社は共に本社がSan Antonioで気心も知れているし、Dellはもともとエンタープライズビジネスの柱にクラウドを置いていた。しかもOpenStackには未だかなり興味がある。同社は現在、ビジネスパートナを多面的に結んでクラウドをカバーしている。しかし出来れば自分で手掛けたいとの思いも強い。ただ良いことだけでなく、Dellがどの程度ビジネスを引っ張ってこれるのか。これは未知数だ。そして何よりもCEOのMichael Dell氏がプロバイダへの進出をどう判断するかである。次にHPだが、HPはかねてからOpenStackベースのクラウドを手掛け、今年5月にはHelionとリブランドして発表したばかりだ。その意味ではタイミングは良くわない。果たしてそうだろうか。或る情報ではCEOのMeg Witman女史はかなり興味を示して、$4-6Bで考えていると伝えられているし、もしHelionとRackspaceが統合するようなことになればHPのクラウドは一挙に最前列に躍り出る。言い換えればHelion単体では成功が危ぶまれるのだ。ビジネス面からみると、HPの企業ユーザへの売り込みのチャンスは多く、2008年に買収したEDSのエンジニアリングパワーを使って、Rackspaceが出来なかった世界展開も見えてくる。もう1社、可能性は殆どないがIBMもいる。IBMは昨年のSoftLayer買収時に噂ではRackspaceも評価したが高額で諦め、結果、SoftLayerを$2Bで手に入れたらしい。ただ、IBMがRackspaceを買っていればベストミックスだったように思うのだが、歴史に"if"はない。
◆ ネットワークベンダ
NWベンダではCisco、Brocade、NetApp、Juniperなどがあげられる。ただBrocadeはVyatta、JuniperもContrailを買収してSDNに注力しているし、NASの得意なNetAppも企業体力的に考えにくい。残るはCiscoだけだ。これはかなり可能性が高い。Ciscoのクラウド戦略はまずOpenStackがベースである。そしてプライベート向けで、UCS(Unified Computing Systems)販売の支援策といったところだ。つまりRackspaceのPublic Cloudとはコンフリクトしない。この組み合わせがあるとすれば、キーマンは同社クラウドCTO兼OpenStack FoundationのボードVice ChairのLew Tucker氏だ。彼がOpenStackプロジェクトで昵懇のRackspaceとCEOのJohn Chanbers氏を引き合わせて説得し、Chambers氏が新規事業に飛び込むかどうかだ。ビジネス的には、Ciscoの持つ企業ユーザ群はRackspaceにとって魅力である。以前からネットワークの巨人Cisco、そしてストレージのEMCと言われて久しいが、EMCの方はVMwareなどを買収して未知の世界を切り拓いてきた。今度はCiscoの出番かもしれない。
◆ ストレージベンダ
ここで可能性のある企業はEMCとSeagate、そしてWestern Digitalだ。この業界はHDDからSSDへの転換期にあり、何かが起こる予感はある。例えばSeagateは長年オープンスタンダードに情熱を注ぎ、昨年Open StorageプラットフォームKineticを発表した。ただRackspaceから見たらメリットは少ない。Western Digitalも大型買収でHGSTを手に入れたばかりで余裕はない。可能性のあるのはEMCだけだ。本業の伸び悩み、そしてVMwareの手詰まり感が強くなった今、もう一度、大型買収はあるのか。
SWベンダで可能性を取沙汰されているのは表向きOracleやRed Hatなどだ。これまでクラウドに見向きもしなかったOracle CEOのLarry Elison氏も変わってきた。昨年11月、OpenStack FoundationのCorporate Sponsorになったのだ。同社にとって、本業のデータベースはBigData時代を迎えて新たな技術提案を要求されている。この状況をブレークスルーする可能性は否定できない。しかしわがままな氏と自由奔放なRackspaceの取り合わせは容易ではない。Red Hatの場合がどうか。可能性はかなりある。該社は昨年OpenStackのディストリビューションRed Hat Enterprise Linux OpenStack Platformを出荷。これはプライベート構築用だが費用やサポートなどが普及の足かせとなっている。同社がLinux同様、OpenStackでも勝ち残る可能性はある。ただ、現在のMarket Capは$10B程度で資金体力に不安もある。もう1社、気になるのはMicrosoftだ。同社がRackspaceを買う理由がないと思う人が多い。しかし考えてみれば、クラウド3強であるAmazon、Google、MicrosoftはいづれもOpenStackをサポートしていない。Amazonは検討外だし、Googleも我が道を行くだろう。そこで新CEOとなったSatya Nadella氏が奇想天外な手を打つ可能性はある。もしAzureとOpenStackが共存統合できたとしたら、Microsoftの企業ユーザにとっても、同社自身にとって大きなブレークスルーとなるのは確かだ。
◆ キャリア
この分野はAT&TとVerizon、そしてCenturyLinkだ。東のVerizonは既にVMwareと関係の深いTerremark Internationalを傘下に収めているので動かないだろう。一番元気なのはCenturyLinkだ。この会社は3位だったQwestを当時5位の同社が買収して大きくなり、その後、クラウドでは2つ大きな買い物をした。データセンタのSAVVISとIaaSプロバイダのTier3だ。そのため、買収には資金的かつ技術的な問題がないかの見極めが要る。残りは西の雄、AT&Tである。AT&TはかつてASPのUSiを買収してこの世界に飛び込んだが地味な活動が続いた。そして2012年初め、心機一転、OpenStackを新たなサービスとして採用。今や同社の世界中のセンタでDeveloper CentricなOpenStackクラウドが動き出している。データセンタと通信網を世界中に展開し、企業ユーザを抱えるAT&Tは、Rackspaceにとっても魅力的だ。また一部米メディアでは北米市場の開発に熱心なNTTも可能性を秘めていると報じている。
◆ その他
以上の分野とは別に、2つ要注意企業がある。ひとつはFacebook、もうひとつはデータセンタファシリティサービスのEquinixだ。Facebookがどう動くのかは未知数だが、同社がクラウド市場に進出する噂は以前からあった。この分野に後発として飛び込むからにはRackspaceの買収は手っ取り早い。実際のところ、Rackspace上でFacebookアプリを開発する環境は整備されている。しかし、Rackspace側から見たビジネスミックスは難しく、相乗効果は期待し難い。となると、Facebookの提示額がどれ位になるかにかかってくる。もうひとつのEquinixは言わずと知れた世界展開の貸データセンタ屋だ。この世界では殆どのプロバイダが世話になっている。つまり買収は、仕事が高じてユーザ企業のビジネスに手を出すという話だ。この話がまとまればRackspaceはデータセンタをほぼ無償で展開出来ることになるが、彼らのユーザには競合相手も多く、この点で難がある。
=そして、どうなるか!=
Rackspaceは体は小さくとも注目に値する企業だ。
同社はこれまでNASA AmesのNovaを実際に開発していたAnso Labsやクラウド関連のCloud Kick、 JungleDisk、Slicehostなどを買収してきた。しかしこのところはプライスタグが高くなかなか手が出ていない。手持ち資金の問題からだ。何とか自社のアセットを最大限に活かして次なるパートナを見つけたい。この争奪戦というか、パートナ探しは結局どうなるのだろう。以下はまったくの外野席から見た私見である。当たるも八卦、当たらぬも八卦なので予めご了解頂きたい。
- 第1グループ ・・・ もっとも可能性が高いのはHPかCiscoだと思う。理由は、HPについてみれば、この取引がHelionを成功させる秘薬であること。eBayの成功を引っ提げてHPのCEOに就いたMeg Witman女史にとって、何とかHPで重要な実績を残したい。加えてこのディールは相互補完も大きいし、両社共にOpenStackに賭けている。Ciscoについては、NW事業からの脱却として始めたUCS販売、その延長線上にクラウドがある。OpenStackとの結びつきも大きく、ビジネスミックスも効果的だ。課題があるとすれば、HPに比べてシステムエンジニアリング力が乏しいところである。
- 第2グループ … 次に挙げられるのはAT&TとDell。AT&Tなら資金力もあり、グローバルオペレーションなどRackspaceができなかった展開が出来る。キャリアの業務の中でインターネットはまさに土管化して収益性が低い。モバイルが行き渡った現在、次なる戦略展開が望まれている。DellはCEOの判断次第だが、環境は良く、動く可能性は高い。
- 第3グループ … こうしたディールにはいつも「まさか」が付きまとう。今回のまさかを挙げるとすれば、FacebookとMicrosoftだろう。理由は前述の通りだ。