2010年12月15日水曜日

SalesforceのHeroku買収が意味するもの!  
                      -Force.com再構築へ-

12月6~9日、San FranciscoのMoscorn Centerで始まったSnalesforce.com主催の恒例カンファレンスDreamforce 2010でCEO Marc Benioff氏から2つの重要な発表あった。ひとつはHerokuの 買収($212M)、もうひとつはBMC Softwareが過去に買収して部門傘下としたRemedyとの提携である。


◆ RubyホスティングのHeroku
Herokuとは不思議な名前だ。 Hero(ヒーロー)とHaiku(俳句)を重ね合わせた造語であり、Rubyを開発した松本行弘氏にちなんでRubyのヒーローになるためにつけた社名だという。HerokuはRubyのホスティ ングをPaaSクラウドとして専門に扱うプロバイダーとして2007年設立、HerokuGardenで有名になった。
この HerokuGardenとは、WebベースのIDEとしてRuby開発が行えるものだったが、ビジネスなどの問題があって今は中止となっている。同社の Ruby実行プラットフォームは、仮想マシンを使ってDyno Gridという仮想グリッドコンピューティング環境を作り、
この上でRubyのプロセスが並 行して動き出す。同社の初期は、このRubyの実行環境を自営センターで行い、その後、競合他社との価格競争からAmazon EC2に移行となった。そして今回の買収によって、Amazon EC2とForce.comの2つをサポートするか、Force.comに移行することになる。


◆ Force.com 2 への拡張
Marc Benioff氏によると、今回買収したHerokuは、Force.comの5つ目のプラットフォームとなる予定だ。PaaS整備を進める同社にとっ て、①部門アプリケーション開発向けのAppforce、 ②Webサイト構築プラットフォームのSiteforce、 ③ISV製品をデリバリーするISVforce、今年4月にVMwareと提携して実現した ④JavaフレームワークのSpringベース開発環境のVMforce、 今回の買収による ⑤Ruby開発環境の5つが勢ぞろいする。これらのプラットフォームサービスは、これまでの個別データベースから統合されたDatabase.comと 連携して提供され、氏はこれをForce.com 2として発表した。


◆ Salesforce.comの課題
Force.com 2への拡張と実際の計画には差異がある。
例えば今年4月に発表した VMforceはまだパブリックβにもなっていない。つまり、Force.com上への移植はそう簡単ではないのだ。そうこうするうちに、 Microsoft Azureの攻勢が始まり、一方でAmazonの進撃は止まらない。何とかクラウド御三家(Amazon、Google、Salesforce)の位置を 守り通さなければならない。下図のようにSalesforceのビジネスは、リーマンショックで一時落ち込んだものの、見かけは順調に伸びている。しかし この伸びは基本的にCRMのサブスクリプションだ。


売上げ 変動には幾つか大きなイベントが絡んでいる。
最初の大きな飛躍は、2005年9月に発表し、実際には2006年始めから動き出した AppExchangeだった。これまでの硬直したプラットフォームを整備し、APIやSDKを公開して、企業ユーザーやISVなどが開発したプログラム を公開・交換する制度だ。これによって既成品のCRMがカスタムメイドとなった。この計画を実行したのはSunから移籍したLew Tucker氏(現Ciscoクラウド部門CTO)だ。このAppExchangeの発表で同社は生き返り、売上げも一段と上を行くようになった。 2006年~2008年までの売上げを見れば、確かな実績がわかる。

◆ Force.comは成功するか
しかし米国のビジネス社会は休ませてはくれない。
そして次の目玉となったの がForce.comだ。Force.comの発表は2007年9月、CRMのSaaSから一段下のPaaSサービスの提供である。しかし、そう簡単には すすまない。問題のひとつは同社のプラットフォームの構造だ。今日の新しいクラウドプロバイダーは、一般に、IaaS→PaaS→SaaSと上位方向へビ ジネスを展開する傾向にある。AmazonのIaaSからPaaSが代表例だ。しかし、WebアプリケーションであるSaaSビジネスからPaaSや IaaSへの下位方向は、その構造がしっかりしていなければ難しい。Salesforceの場合、ここに素朴な疑問がある。もうひとつは、同社が Force.comで独自開発のプログラミング言語Apex Codeにこだわったことだ。Apexを使えばCRMの
カスタマイズやトリガー、ストアー ドプロシージャ、更にはビジネス・ロジックなどの作成が出来、かつJavaに似ているので習得は容易だとし、同社としてはこれを普及させたかったに違いな い。しかし、Apexの普及度合いはまったくのところ、解らない。VMwareと組んだSpringベースのVMforceもまだ動き出していな い。そして今度はRubyのHeroku買収である。この発表時には、Marc Benioff氏自身がいみじくもApexに固執し過ぎたと弁明した。Herokuにはかなりのデベロッパーがついている。今度こそ、Rubyコミュニ ティーを上手く引き寄せ、一方でJava SpringのVMforceを仕上げなければいけない。