このような環境では、オープンソースを支えるスポンサー企業の台所事 情も大変だ。
ApacheやMozillaを サポートするGoogleやEclipseの IBMなどは経営も健全で心配はない。しかし数多くのプロジェクトを支援していたSunやNovellは買収されてしまった。周知のように、メインフ レームからUnix、そしてLinuxへと時代が進んでコンピュータ産業は成熟し、今やユーザーを代表するデベロッパーの協力なくしては製品/サービス開 発は進まない。世界中のデベロッパーの技術力は高く、OSからBrowser、Application /Web Server、Databaseなどの殆どをオープンソースとして開発し、NASAのクラウドNebulaは、全てがオープンソースで構築されている。過去、何度かコミュニティーと悶着を起こしたMicrosoftですら、この辺りの事情は解っていて、Windows関連のオープンソースサイトCodeplexを2006年から開設している。しかし、残念だがAppleとOracleに限っては理解が違うようだ。Appleの独自技術指向は総指揮官であるSteve Jobs氏の好みだし、Oracleの場合もLarry Ellison氏には、オープンソースなど眼中にないように見える。そして、この2社は共に、この不況下でも大きな利益を出しているのだから、
彼らは当分、その理屈を変えないだろう。
◆ OpenOfficeから LibreOfficeへ
Oracleとコミュニティーの最初の騒動が外部に表面化したのは昨年9月だった。
これまで OpenOfficeを支えてきた主要メンバーがDocument Foundationを設立し、 OpenOffice.orgからフォーク、新たにLibreOfficeとして開発を進めると発表した。しか しこれは突然のことではなかった。Sunの買収後、これまで通り継続的なサポートを期待するコミュニティーとOracleの対応にはギャップがあり、何度も話し合いが行われた。
振り返ってみると1999年にSunがMicrosoft Officeに対抗するStarOfficeを開発していた独Star Divisionを買収、2000年にはOpenOffice.org(OOo)を立ち上げてオープンソース化して、2002年5月に最初のOOo 1.0(StarOffice 6.0ベース)」が出た。
それから10年、昨年はコミュニティーの10周年記念だというのにSunの買収、 Oracleとの話し合いの難航、そして独立と苦難の年だった。しかし、殆どのコミュニティーメンバーは新しい組織に移り、FSF(Free Software Foundation)やGNOME Foundation、OASIS、Open Source Business Foundation、Open Source Consortium、Open Source Initiativeなどオープンソース関連の組織、民間からはCanonicalやGoogle、Novell、Red Hatなどの支持も取り付けた。
OOo からのフォークにあたって、 これだけ普及しているOpenOfficeの名称をOracleに譲るように求めたが、応えはNOだった。一方で昨年12 月、OracleはOracle Cloud Officeを発表。これはフォーク後、2つの組織(Oracleと Document Foundation)から出されたOOo3.3をベースにしたものだが、さらにWeb化されてスマートフォーンからのアクセスが出来る。3つのエディ ションのHome(未定)、Standard($40)、Professional($90)は全て有料だ。
◆ OpenSolarisも暫時終了か
Sunがデベロッパー拡大のために始めたOpenSolarisプロジェクトも心配だ。
当初、 OracleはOpenSolarisの継続を約束していたが、その後の動きを見ると、このプロジェクトも暫時終了の方向に見える。Oracleが発表したサポート計画Service Life Status for OpenSolaris Operating System ReleasesでもOpenSolaris 2008版は今年の春から冬にかけて、2009版は来年早々にサポートが打ち切られる。昨年夏にはSolarisプロジェクトのMike Sharpiro氏、Bill Nesheim氏、Chris Armes氏の連名でOpenSolaris Cancelled, to be Replaced with Solaris 11 Expressというメール出た。このメールではSolarisの重要性を説きながら、一方で投資の効率化から、今年リリース予定の Solaris 11開発にOracleは集中し、結果として、今後はオープンソース版と商用版のリリース順序を逆にするとしている。つまり、SunはSolarisの改良のため、世界中のデベロッパーの協力を仰ぎながら、OpenSolarisを先出しし、その後に、正式版を出すという戦略だった。これを改め、Oracle内だけで開発し、OpenSolarisは暫時取りやめということのようである。
◆ AppcheがJCPから脱退
昨年12月9日、Apache Software Foundationは、 かねてからの通告通りJCP (Java Community Process)のJava SE/EE Executive Committeeから脱退すると発表した。問題はライセンス解釈に伴うJava SE TCK(Technical Compatibility Kit)の提供拒否からだった。Apacheではトップレベルプロジェクトとして2006年からクライアントでのJava開発と実行環境プラットフォームApache Harmonyを進めてきた。
Harmonyは、勿論、適用製品のソースコードに公開義務のないApache License 2で
リリースされる。問題の核心はHarmonyがJava SEの認定品かどうかを検定するTCKの「Field of Use(FOU)」制限である。FOUとは、適用製品が適合するプラットフォームかどうかを規定するもので、場合によっては不可となる可能性がある。 Apacheから見れば、HarmonyがTCKでJava SE仕様に適合していれば、その先にある最終の適用製品はApache License 2に準拠していれば良いという考えだ。JCPの目的とは、Javaをデベロッパーが円滑に利用するための制度をコミュニティーが主体として定めるものであり、さらなる制限事項には承服できない。これでは何のためのJCPかわからないというわけである。ただ、この問題はSun時代から始まっていた。Java開発元のSunは、Javaの基本理念である“Write Once, Run Anywhere(一度(プログラムを)書けば、どこでも実行できる)”を保証するためには、必要な制約事項だとしながらも妥協の道を探っていた。当時、OracleはHarmonyの支援企業としてこの制限をなくすようSunに要求していたからややこしい。しかし、買収後は一転した。また昨年10月には、今回と同様の問題から、コミュニティーに影響力の大きいDoug Lea氏もExecutive Committeeを辞めている。
◆ HudsonからJenkinsへ
アジャイル開発のHudsonについ ては前回触れた。
Sunのエンジニアだった川口耕介氏が始めたオープンソースプロジェクトだ。
HudsonはOracleの買収に伴ってOracleのプロジェクトとなったが、ここでもOracleとコミュニティーの関係は躓き、コミュニティーがホスティングサイトをJava.netからGitHubに移行することを決めると、OracleはHudsonの商標権を主張。コミュニティーは議論の末、1月末、 Hudsonの名称変更を投票で決定し、新名称はJenkinsとなった。Oracleは同日、Hudsonを継続すると表明し、結果、奇妙なことに2つのプロジェクトが存在する。今後、JenkinsプロジェクトのサイトはJenkins-CI.org、コードはGitHubを利用する方針だ。
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オープンソースプロジェクトとは誰が何をするためのものなのだろうか。
どの企業がオープンソースをサポートするにしても、その運営が難しいことはよく解る。
資金や人材を出すためには企業側のメリットが無ければならない。SunやGoogleのようにコミュニティーと連携して、製品改良や技術の普及を図ることにメリットが見出せれば、サ ポートするだろう。Codeplexを運営する現在のMicrosoftにもその傾向は見える。
そしてサポートするプロジェクトの成果は自社製 品や技術となり、一方でコミュニティーは自分たちが欲しかったプロダクトを手に入れる。この構図が見出せなければ、企業は動かないし、コミュニティーも納得しない。Oracleの場合は何を考えているのだろうか・・・