企業は既に仮想化技術を導入してサーバーを統合、次にパブリッククラウドを使ってその有用性を確かめてきた。そして徐々にプライベートクラウドの検討が始まった。しかしデータセンターの仮想化と違い、プライベートクラウド構築には障害が幾つかある。ひとつは有効なクラウドインフラが少ないこと、もうひとつはベンダーロックイン(縛りつけ)だ。
◆ クラウド・バトル(Cloud Battle)-タテかヨコか-
この2つの問題は絡み合って見える。
仮想化ではVMwareを筆頭にCitrix/Xen、Red Hat/KVM、Windows/Hyper-Vなどが市場を分け合い、彼らはその上に運用管理領域の整備、そしてクラウドインフラの提供と勢力をタテ方向に伸ばしてきた。まさにベンダーロックインである。しかし彼らのクラウドインフラはVMwareのvCloud Directorでさえ予定を大きくずれてやっと出てきたばかりだ。Xen Cloud PlatformやRed Hat Cloud Foundationは開発途上と言って良い。
これを回避し、迎え撃つのはオープンソースを基本としたプロダクト群である。
UC Santa Barbaraで開発されたEucalyputus、 RackspaceにNASAが協力して動き出したOpenStack、SunのJVMエンジニアが興したCloud.com、さらにスペインから始まった欧州のOpenNebulaなどだ。これらのプロダクトは仮想化技術を抽象化して、ベンダーに縛られずにクラウドを作ることが出来る。現段階ではシステム毎にどの仮想化技術を適用するかを決める場合が多いが、少しづつ同時に複数の仮想化対応も可能となり始めた。この技術が確立できればユーザーは仮想化技術にまたがったリソースプールが可能となる。まさにヨコへの展開だ。
◆ RightScaleのハイブリッドアプローチ
タテ・ヨコの戦いを横目に、RightScaleはもうひとつのアプローチを追っている。
ユーザー企業には沢山のアプリケーションがあり、これを 「Application Portfolio」とすると、それらを「Requirements Filter」で条件付けし、「Resource Pool」から該当するプラットフォームを選んで実行させる。例えば、アプリ-Ⅰは実行コストを重視してPublic Cloudで処理、アプリ-Ⅱはセキュリティーの観点からPrivate Cloudで実行、アプリ-Ⅲはダウン回避から高信頼性HA(High Availability)に振り向けるといった具合だ。ここでRequirements Filterの項目には、処理能力やコスト、セキュリティー、コンプライアンス、信頼性などが該当する。また、Resorce Poolにはパブリックやプライベートクラウド、さらにはオンプレミスや単なる仮想化マシン、ホスティングなどでも良い。勿論、プライベートには本格的なクラウドから外部委託(Managed Private Cloud Hosting)も含まれる。つまり、タテ・ヨコの論点とは別な視点で、アプリケーションと実行リソースを結びつける現実的なアプローチだ。RightScaleの利用の仕組みを振り返ってみよう。
まずデベロッパーには意図する実行イメージ(Runnable Abstraction)があって、それを具体化するためにRightScaleが用意したテンプレート(Server Template)を利用する。これによって作業のリードタイムは大幅に軽減する。同社の初期製品はAmazon Web Servicesのみのサポートであったが、徐々にマルチ対応が進み、Eucalyptus、GoGrid、FlexiScale、最近ではCloud.comも対象となった。
しかしマルチインフラ化は簡単な仕事ではない。
リソースAPI(Resource Set、Format、Multiple Version)の差、ネットワーク(VLAN、NAT、IPs、ACLs)やストレージ(Local、Attachable、Backup、Snapshot)の考え方の違いなどが複雑に絡み合っている。これをひとつづつ解きほぐして、同社では異なるクラウドなどのインフラで稼働させる実行イメージ(Runtime Config)を作り出している。これが同社の考えるハイブリッドクラウドという訳だ。
◆Nimbulaのハイブリッドアプローチ
Amazonクラウドの生みの親Chris Pinkham氏が始めたNimbulaのアプローチも期待が高い。Nimbulaが現在βリリースしているNimbula Directorは、主として企業向けに自社データセンターとAWSなどをハイブリッドにした総合運用環境の構築を目指している。つまり、オンプレミスのプライベート環境に拡張性のあるAWSなど外部パブリッククラウドを組み合わせて運用することで、これまでにない柔軟性を生み出す狙いだ。
実際、プブリッククラウドを試した企業ユーザーは、その弾力性(Elastic)に驚かされる。しかしだからと言って、全てのアプリケーションをパブリッククラウド上で構築することはありえない。そこで、 同社では自社クラウドの構築と外部クラウドを組み合せた新しい社内インフラのあり方を提案する。これがNimbula流ハイブリッドクラウドである。
Nimbulaの特徴は仮想化技術の抽象化だ。
β版ではXenとKVMに対応し、出来上がったクラウドは同じものをネットワークブートで複数サーバーに次々にインストレーションできる。次にユーザ(User, Group, Permission)、イメージ(Machine Image)、ネットワーク(Virtual Ethernet, Virtual DHCP)、インスタンス(View Instance, Launch Instance)管理などを設定。
これで大型クラウドが出来上がる。このクラウドインフラは論理的なセグメントに分けて、マルチテナント利用が可能だ。正式版では個々のセグメントにAccess PolicyやSLAを設定して、同様の設定をしたAWSとの連携も可能となる。こうなれば、まさに自営AWSと本物のAWSを連携運用している気分である。
今回は、クラウドインフラの領域でタテかヨコかという問題を提起した。
仮想化ベンダーによるタテ、対するオープンソースのヨコ。この2つが共存するのか、
はたまたどこかが勝ち抜いてくるのか、今年1年が注目となる。これは企業ユーザーにとって重要な問題だ。一方でRightScaleやNimbulaのようなアプローチもある。
RightScaleは丹念にクラウドの差異を繋ぎ合せてハイブリッドを可能とし、ユーザーの反応は上々だ。こうして、同社製品は初期のAWS用テンプレート対応から、現在では“Cloud Management Platform”となった。Nimbulaの場合は、俊敏性のあるAWSの良さを自営クラウド化する試みである。両社の提案するハイブリッドは、 RightScaleが現状拡張型、Nimbulaは新規導入型だ。いずれも、クラウド構築に付き纏う仮想化技術からの回避である。