2014年4月21日月曜日

NTTコム「Bizホスティングクラウド」への期待

4月15日、NTTコミュニケーションズ(以 下、NTTコム)はクラウドの事業説明会を開催した。有馬社長自ら説明に立って、これまでの経過を概括。その上でキャリアとしてのアセットを活かしなが ら、クラウドビジネスを進める世界展開“Global Cloud Vision 2014”を力説した。キャッチフレーズは「Seamless Cloud for the World」。そして2015年度には売り上げ2,000億円を目指すと宣言。同社の一般向け“BizホスティングCloudn(クラウド・エヌ)”と企業向け“BizホスティングEnterprise Cloud”が始まったのは2012年6月末。相前後して、日本市場では多くのクラウドが登場したが、彼らが苦戦する中、NTTコムのクラウドは順調に成長している。しかし、世界市場を見るとAmazonが突出し、それをRackSpaceが追い、巨人IBMは自社開発のクラウドを捨ててSoftLayerに乗り換えた。時はまさに激動の真っ只中だ。1時間を越えた説明会の内容は、多くの記事(ITProITmediaクラウドWatchマイナビサーチナ)があるのでここでは割愛したい。ただ正直のところ、終わった後、やや物足りなさを覚えた。以下は同社クラウド戦略に関する期待と提言である。

=NTTコムの優位なポジション=
クラウドプロバイダーの立ち位置は重要だ。
振り返ると、大手総合コンピュータ会社が表舞台を降りて、x86ベースのPCベンダーと群雄割拠するソフトウェアベンダーの時代となって久しい。さらに現在はと言えば、PCやサーバービジネスはモバイルに食われ、生き残ってきたLinuxとWindowsもAndroidやiOSが侵食し、多くのソフトウェ ア分野ではオープンソース製品が勢力を伸ばしている。つまり市場は成熟して、技術は民主化し、どんどん既存ベンダーの手から離れてゆく。クラウドはそのような時代背景の中で生まれ育ってきた。あのIBMのSmartCloudが上手く行かなかった理由がここにある。SoftLayerはユーザが本当に欲しているものが解っていた。Amazonはeコマースの会社だ。彼らはどのようなシステムが欲しいのか身を持って理解している。ホスティングビジネスの Rackspaceも同様だ。この流れは日本市場とて変わりはない。国内の大手コンピューター関連企業は、これまでの技術的しがらみを引きずりながらクラウドをスタートさせた。これに対して、NTTコムは比較的ニュートラルな状態からスタートできた。これが今日の成長の起点であろう。

=国際標準のクラウドへ=
このようなNTTコムへのユーザの期待とは何か。
それはクラウド採用時の短期的満足度だけではない。勿論、サポートや料金は重要である。しかしユーザが安心して長期に亘って使えることこそ、真に重要なポイントである。オンプレミスのシステムがクラウドに移行し、目の前からデータセンターが見えなくなった。今や業務システムだけでなく、開発環境もPaaSへ移行し始めている。全てがクラウドに向い抽象化が進む。ユーザにとってセンター運用の負担が減った分、不安も大きい。数年先には実際のサーバーを動かし たことが無いIT部員が増えてくる。彼らが頼るのは最早コンピュータメーカーではない。サービスプロバイダーだ。そのためには基幹技術や製品が長期間の利用に耐えるものでなければならない。これが基本だ。国際的な諸活動に積極的に参加し、コントリビュータとなって働き、「Bizホスティングこそがもっとも国際規格やデファクトに準拠している」とアピールできれば素晴らしい。それには、現在のベースとなっているCloudStackと進展著しいOpenStackとの調整がいるのかもしれない。ユーザにとって、国際標準に忠実であるという理解が進めば“Global Cloud Vision”の達成は見えてくる。

=価格競争はこれからだ=
説明会に先立って、NTTコムはクラウド料金を最大約37.5%値下げすると発表した。これは大きな弾みとなる。しかしAmazonの価格改定が20回近くに及ぶように、価格競争はこれからが本番だ。そのための鍵は要員とデータセンターである。これを改善しなければ世界では勝てない。まずキャリアとしてのアセットを活かした電話やテレビ会議、チャットなどのサポートを徹底すべきである。もうひとつの課題はデータセンター関連コストだ。有馬社長はnetmagicRagingWireなどの買収の結果、最大手Equinixが約50万㎡(推定)程度なのに対し、NTTコムも約25万㎡になったと胸を張った。しかし、世界で戦う彼らのコスト意識は厳しい。これに対抗するには、国内外のセンターを全て自営として使うのではなく、何らかの工夫をしてスクェアコストを引き下げる模索がいる。関連して、ネットワーク機器への積極的なSDNNFVの採用も急務である。

=NTTグループの総合力=
もうひとつ気になることがある。
それはNTTグループ全体としての動きである。NTT Dataは独自クラウド運営しているし、親会社のNTT Holdingsも海外ではDimension Dataに投資している。南アフリカを本拠とする該社は世界展開の大手データセンターだ。2011年7月にはシリコンバレーのクラウドプロバイダーOpSource を買収してクラウドビジネスを本格化させた。勿論、種々事情はあるのだろう。しかし、これらがすぐには統合できなくても、少しずつグループとしての全体像が見えてくれば、ユーザの理解は進み、大きく前進できる。

=目指すは世界!=
IBMのCEO Ginni (Verginia) Rometty女史は2013年度決算速報時(1/21)に、2013年のクラウド関連売り上げは$4.4B(約4,400億円)、そして2015年の目標を$7B(約7,000億円)にすると説明した。これは全世界展開の数字である。翻って、NTTコムの売り上げは、2012年度が960億円(2013年度は未発表)、2015年度は2,000億円を目指す。これが達成できれば世界のIBMが見えてくる。繰り返して述べよう。そのためには「ベンダーニュー トラル」の維持と「国際標準クラウド」の推進、そして「キャリアとしてのアドバンテージ」を活かし、「NTTの総合力」発揮が必要である。