San Francisco Chronicle |
=もう一人の天才!=
Steve Jobs氏は天才だった。
しかし、Musk氏はそれ以上かもしれない。彼の起業歴は凄いの一言だ。スタンフォード大学院を辞めて、弟のKimbal Musk氏と始めたシティーガイドのZip2をCompaqに売却。その資金でPayPalの前身となるX.comを興したのは1999年ことだ。さらにPayPalをeBayに売り払い巨額の資金を獲得した。そして、2002年にはロケット推進のエンジニアと組んでSpaceX(Space Exploration Technologies)を起業。2012年5月、同社は自社開発のFalcon9で宇宙連絡船Dragonを打ち上げ、宇宙ステーションISSとドッキングに成功させた。このFalcon9は、第1弾ロケットが同じエンジンを9つクラスタ化したように、コモディティ技術を徹底、結果、製造コストは従来の10分の1だという。彼はSpaceXを立ち上げると、翌2003年にはTeslaを3人の仲間とスタートさせた。そのTeslaが最初に出した車がTesla Roadsterだ。価格が約1,000万円($98,000)もするのに注文が殺到した。
それもその筈、この車はコモディティ技術を使った高性能ハイテクEVというだけでなく、ボディーはあの名車Lotus Eliseそのものだからだ。この車にはノートPC用と同じ形状の専用バッテリーが6,831本搭載してある。Musk氏はTeslaのCEOというだけでなく優れたデザインセンスとエンジニアリングの知識を駆使して、Roadsterをはじめとする車の開発とデザインの責任者を務めている。彼はSpaceXでもチーフデザイナーとして活躍し、2006年からは従兄弟と一緒に太陽光発電のSolarCityも立ち上げた。これだけの多面的なセンスと技術力、そして行動力が伴えば、Appleファンならずとも、彼ならきっとAppleとTeslaを組み合わせた凄いことをやってくれるのではないかという期待が膨らむ。
=Telematicsの世界=
さてTelematicsの世界に話を進めよう。
Telematicsとは自動車などの移動体に通信システムを組み合わせた情報サービスシステムのことだ。解り易い話、カーナビがその代表である。この分野はどんどん進化し、今やカーナビのハードウェアはディスプレイオーディオとなり、表示だけでなく、素晴らしいサウンドとも連動するし、タッチスクリーンも登場。そして、スマホと繋いだ連携アプリも登場する時代となった。世界中のインターネットラジオを聞いたり、近くのガソリンスタンド探しやレストランの予約、映画のチケット購入などが運転しながら出来る。スマホが出来るものなら技術的には何でもOKだ。これをインフォテーメントInfotainmentという。インフォメーションとエンターテイメントを組み合わせた造語である。
◆ MirrorLink規格
このような本格的なTelematicsが登場したのはもう4-5年も前のことだ。しかし問題もある。テレビの視聴が運転中はブロックされているように、スマホのアプリによってはドライバーの気を散らす。運転しながら安全にスマホアプリを楽しむにはどうすれば良いのか。またスマホと言っても、iPhoneもあればAndroidもあるし、Windowsだってある。しかもこれらは次々にバージョンアップをする。さらに、カーナビ(以下、ヘッドユニット-Head Unit)メーカーは日本勢を中心に10社以上あり、自動車会社は車種毎に複数のヘッドユニットモデルを出している。複数種類のスマホと多様なヘッドユニットを永続的に接続する方法、そして安全にアプリを使う条件とは何か。ひとつの回答は、業界コンソーシアムCCC(Car Connectivity Consortium)が制定したMirrorLink規格だ。これはNokiaが開発したTerminal Modeを発展させたもので、スマホとヘッドユニット間のプロトコルである。これを採用すれば、スマホと同じ画面がヘッドユニット上に現れて、タッチスクリーンも使える。さらに、昨年11月、CCCが発表した最新版のMirrorLink 1.1では、スマホのアプリに対して、“Base”と“Drive”の認定制度が決まった。“Base”カテゴリーと認定されたアプリは停車時に利用可能で、“Drive”認定のものは運転時でもOKだ。安全運転に関する認識は世界中で異なる。欧州では殆どがユーザの個人責任だ。つまり、スマホアプリだって、基本的には何でも構わない。しかし、日本の場合は異う。規制が厳しく、動画表示は勿論、写真なども規制される場合が多い。米国はその中間か、少し欧州寄りだ。MirrorLink1.1の定めたこの認定制度は、自動車会社の地域別採用基準の指針となり、アプリ会社には製作ガイドとなる。
◆ Tesla Model-S
Teslaの場合はどうか。2006年に米国で発表されたModel-Sを見て驚いた。
ディスプレイが大きい。何と17インチの縦型のタッチスクリーンだ。全ての操作を集合させたデジタルインスツルメントパネルである。車のドアを開けて乗り込むとディスプレイはすぐにONになり、バッテリーの状況や車全体のステータス表示、ドアロックは勿論、全面ガラスのパノラミックルーフ開閉、エアコン調整、ヘッドライトのON/OFF、サスペンションの上げ下げ、そしてカーナビゲーション、音楽、AM/FM/インターネットラジオなど全てがタッチ操作で可能だ。Webのブラウジングもお手のもの。必要な情報入力にはソフトキーボードが現れる。ディスプレイの最下段には良く使われる機能ボタンが配置され、全体は上下2段に分かれて表示されたり、New York Timesなら一体の全紙サイズで読める。システムのOSはLinux、インターネット接続装置は標準搭載だ。このようにModel-SのTelematicsは車のミッションクリティカルアプリケーションとスマホのアプリやWebが完全に組み込まれて一体化されている。このシステムではスマホは要らない。いちいちスマホを持ち込んで繋ぐのは美しくないからだ。
◆ Apple CarPlay
3月3日、とうとうAppleがCarPlayを発表した。これは以前から“iOS in the Car”と言われていたものである。仕組みはiPhone5とヘッドユニットをLightningケーブルで接続し、ハンズフリー電話やミュージック、カーナビ、メッセージングiMessageなどが利用出来る。勿論、Siriを使った音声応答が基本で、電話や音楽検索には便利だ。ミュージックにはiPhone内のものを聴くだけでなく、PodcastやインターネットラジオのStitcherやSpotify、iHeart Radioなどが利用できる。しかし、現時点で市場に出ているインフォテーメントと比べ、特別な優位性は見出しにくい。音声応答は既に市場に幾つか出ているし、アプリケーションも多くはない。さらにカーナビはマップと交通情報システムVICSが統合されなければ日本のユーザは見向きもしないだろう。それでもAppleの威光はまだ絶大だ。発表時点で世界中の殆どの自動車会社が参加を表明し、一部は既に製品投入をリリースした。
=Apple iCarは出るのか?=
車とスマホ、その両最先端を行くAppleとTesla。
iPhoneは2007年に発表され、その後、3G、4、4S、5、5s/cと進化した。
しかし、もうそろそろ次の目玉が欲しい。一方、TeslaはスポーツカーのRoadsterから次にセダンModel-Sを送り出し、近々SUVとミニバンを組み合わせたModel-Xのデリバリーが始まる。目下、両社の共通テーマはCarPlayのようなインフォテーメントだが、もっと大きな夢がある。生前、Jobs氏は車のデザインに興味津々だった。ライバルのGoogleは車の自動運転システムを開発中だし、プラットフォームとなるOSの競争も激しい。きっと、Musk氏なら噂のiCarのような素晴らしい車を開発してくれるかもしれない。