2015年1月13日火曜日

クラウド各社の戦略再設定(6)! -Amazon-

これまで独走とみられていたAmazonの前にMicrosoftやIBMが立ちふさがり始めている。エンタープライズ市場の壁だ。この壁にどう挑むのか、それには大きな戦略の再設定が必要である。 しかしAmazonには両社のようなエンタープライズ市場での実績がない。同社がこれまで採った戦略は閉ざされていたこの市場をPublic Cloudに引きずり出すことだった。Amazonの採った戦略は成功し、独走態勢に入ったかに見られた。しかしクラウドの民主化に伴って、流れは一段落し、オンプレの本格的なクラウド化はPrivate Cloudへ、そしてHybrid Cloudへと動き出しつつある。Amazonは今後どう動くのだろうか。 

=Amazonの基本戦略=
Amazon Economic Cycle
Amazonがこれまで採ってきた基本的な戦略は右図のようなものだ。まず徹底的にインフラを整備し、それによって利用価格を下げてユーザを呼び込む。AWSの初期には本業Online Shop向けのデータセンタ内に機材を共存させたりもした。ユーザが増えると、次々に便利な機能を提供して利用を促進させる。それらの収益でさらにインフラを増強する。勿論、増強した設備の効率化を図り、さらにコストを下げる。これが基本戦略だった。同社はこれまでこのエコノミックサイクルを回して価格改定を40数回行ってきた。ユーザは機能強化と低価格化に引き寄せられるように増え続けた。規模を切れ目なく時間をかけずに大きくするこのやり方は、小売業から学んだものだ。しかし昨年3月、Googleが価格競争を仕掛け、30~85%という大幅なPrice Cutを断行。グローバルなデータセンタ展開なら負けるわけがないという自負からだ。その翌日にはAmazonからも新価格が出た。そしてMicrosoftもこの価格競争についてゆくと宣言。こうして低価格競争は完全な三つ巴戦となり、さらにHybridへの流れが加速し始めた。
=先手を打ったAmazon VPC =
Hybrid Cloudの議論が起こる以前に、実際のところAmazonは今日で言うPrivate Cloud、ないしはその関連ですでに幾つかの取り組みをしていた。この辺りはさすが見事である。表に出てきたのは3つ。2011年夏に発表したAmazon VPC(Virtual Private Cloud)がトップバッターだった。VPCとはユーザが設定した仮想ネットワーク内で動くEC2などのAWSである。AWS独自のVPN(Virtual Private Network)機能と考えて良い。勿論、オンプレとVPCを本来のVPNで繋ぐことも出来るし、さらにはVPC同士をピアリングPeering)することも可能だ。この形は現在でいうPrivate Cloudとは、クラウドそのものの物理的な位置が違うが、論理的にはプライベートな空間を作り上げている。つまりPublic Cloud上に論理的なPrivate Cloudを構築する。実際問題、この形態で満足できるユーザはかなりある様子だし、何よりもHybrid Cloud構築は容易である。

 =Nasdaq向けFinQuloudのその後=
次に2012年9月、AmazonはNasdaqを運営するNasdaq OMXの要請を受け、
ユーザ(ブローカー&ディーラー)向けサービスFinQuloudを発表した。このシステムはNasdaq市場に参加するユーザとAWS上に作り上げた取引データの保存&分析サービスを前述のVPCで構築したCommunity Cloudである。FinQuloudはNasdaqのデータセンタとAmazon Direct Connectによって接続され、アップロードされるユーザデータは暗号化されて、高度な気密性を保つ設計だ。こうして鳴物入りでスタートしたFinQuloudだったが、1年半の運用の結果、残念なことに上手くいかず、昨年春にクローズとなった。理由は明らかにされていないが技術的なことよりも金融業務という特殊性にあるようだ。

=CIA向けAWSの受注、これはPrivate Cloudだ!= 
2013年始め、CIAのクラウドビジネスにおけるAmazonとIBMの戦いの噂が流れた。これが3つ目である。結果はIBMの提案価格が低かったにも関わらずAmazonの勝利となった。しかし当初、米会計検査院GAO(Government Accountability Office)がAmazonの提案は基準を満たしていないという懸念を示していたことから、IBMはこの決定に異議申し立てを行った。これを受け、同年6月6日付で米会計検査院GAO(Government Accountability Office)から精査報告書が出た。それによると評価価格はIBMが年間$93.9M、対するAmazonは$148.06Mと約1.5倍も高かった。

Consensus Evaluation for IBM & Amazon 

しかし報告書は上表のように、Amazonの提案は素晴らしく(superior technical solution)、IBMの評価費用の優位性をも相殺するとした。つまり費用よりも技術的な部分を重視したということである。以降、両サイドから提訴が繰り返されたが、結果は覆らなかった。IBMのショックは計り知れない。この敗北がSoftLayerの$2B買収に繋がったと見るのは穿ちすぎだろうか。さて、ここで大事なことがある。このCIAのクラウドはPrivate Cloudだ。つまり、AWSと同等のシステムをCIAのデータセンタに構築運営することになる

=Amazonはどう動くか!=
3つのケースを見てきた。これまでAmazonはPrivate Cloudには冷ややかだった。Public Cloudこそ、クラウドだと主張してきた。企業を超えたPublic Cloudでなければ大きなコスト削減はできない。しかし、市場はHybrid Cloudに向かう気配だ。彼らはどう動くのだろうか。VPCはこれまでの主張に沿うサービスである。FinQuloudは例外として、Community Cloudは優れた戦略だ。CIAのAWSクラウドも昨年7月末、約10ヶ月の作業を経て動き出した。これらを踏まえ、Amazonが市場に新たな提案をするのか、今年は目が離せない。