それらのレポートはEMC、Cisco、IBM、Rackspace、Microsoft、Amazonである。そこで今回はこれらを総合的に比べ、2015年を占ってみようと思う。ただ、きっちりとしたデータがあるわけではないので、あくまでも私見として一瞥頂きたい。
=なぜ、戦略再設定が必要なのか=
まずシリーズで取り上げてきた戦略再設定とは何かを確認したい。
クラウド市場を俯瞰すると、Public Cloudの成長は続いているものの鈍化傾向が見え始め、対して、次第にPrivate Cloudが台頭しつつあることが解る。これは、これまで個人、ないしは企業内デベロッパーが、本番業務も多いが、多くは試行と称して取り組んできたPublic Cloud利用が一段落し、Private Cloudによって本格化するという兆しだ。まさに次の時代への狭間に我々はいる。かつて仮想化が企業内ITに浸透したように、これからはPrivate CloudがIT基盤として一般化し、従来からのオンプレ業務はこの上に移行され、さらに繁忙期にはPublic Cloudとハイブリッドとなって、全体的なITコストは大きく低減するというシナリオである。クラウドプロバイダーから見ると、このような流れに沿うためには、これまでの低コスト化とサービス機能拡大という戦略だけでなく、新たな視点での戦略が必須となる。これが戦略再設定の意味するところだ。端的に言えば、Private Cloudに手をつけるのか否か、つけるとすれば何を、どのような方法で提供するのか。またハイブリッド化は特定の範囲内だけなのか、それとも、制限はあるものの広域化させるのか。このような事柄が戦略再設定のポイントである。
=ポジションマッピング!=
上記に関して、昨年度、クラウド各社の動きは慌ただしかった。
ただ全てが明らかになったわけではない。現状では、一部を行動で見せたプロバイダー、ブループリントを提示したところ、今考えられる全体像を一部製品とともに発表したベンダー、未だ検討中の企業など、状況は様々だ。ここでは過渡的ではあるものの、個々の新たな戦略的位置関係がどうのようになっているのかを図示してみようと思う。クラウドを使う企業にとっては、現在利用しているクラウドプロバイダーが今後どのように進展し、他はどう動くのかを見極める手がかりとするためだ。これは今後の自社ITインフラを決めるとても重要な要素となろう。下図において、横軸は中央を境に、右がオープン指向(Openness)、左 は独自指向(Proprietary)を指し、縦軸はサービス領域(IaaS、PaaS、SaaS)を示している。
Position Mapping for Cloud Players |
個々のベンダーについては後で述べるとして、戦略再設定による動きの一番目のポイントは上図の横軸である。左は独自色のプロプライエタリー(Proprietary)領域を示し、右は開放性 (Openness)を意味するオープン領域を示す。注目すべきは、これまでの戦略、特に独自性の高かったプロバイダーがそのままの位置を維持するのか、はたまた軌道修正するのかである。ここではプロプライエタリー領域に入るものとしてMicrosoft、Amazon、Google、EMC/VMwereをあげ、右側のオープン領域には、いづれもOpenStackとの関連性の高いRackspace、Cisco、IBM、HPを分類した。
◆ポイント2; IaaSからPaaS、さらにSaaSへ(縦へ)
もうひとつのポイントは上位サービスへのシフトだ。周知のように初期の間は殆どがIaaS領域で戦った。この領域ではサポートOSの範囲やリソースの細かな単位化、それに伴う費用などの優位性をユーザに訴え、さらに細かな機能追加などが競われた。次にIaaS利用拡大の大きなステップになったのはPaaSだ。各社共、開発実行環境をPaaSとして整備し、アプリ開発を促進させて勢力拡大に大いに貢献した。しかしPaaSは開発実行環境だけにとどまらない。各社の戦略再設定を注意深く見ていくとそのことが解る。例えばBigDataを見ると、解析のための基本ツール群やデータベース、プラットフォームなどはPaaS領域とし、SaaS領域では固有のアプリを規定する傾向が強い。CRMやERPなども同様に捉えることもできる。つまり、大規模アプリケーションでは常にカスタマイズが伴い、それをPaaS領域で調整し、SaaSで実行するという流れだ。勿論、汎用アプリでもあまり大がかりでないものはSaaS領域だけで完結する。 ともあれ、時代が進み、今やPaaSやSaaS領域にどう取り組むのかは戦略再設定の重要なポイントである。
=戦略的位置はどうなったか!=
さて、次にクラウド各社の位置がどのように再設定で動くのか個別に追ってみよう。
◆ プライベートクラウドでAmazonは動かない?
前回のブログでAmazonの取り組みについて述べた。同社はこれまでPublic Cloudこそが王道で、Private Cloudについては否定的だ。このポリシー上のサービスがVPCであり、その適用形がCommunity Cloudである。今年はこれらの拡大がテーマだ。CIA同様のフラッグシップPrivate Cloudを手掛けるのかは未知数。多分、Amazonの立ち位置はプロプライエタリー領域から動かず、縦にはERPやBig Dataなどを今以上に加速させる予感がする。
◆ CiscoのInterCloudは成功するか!
Ciscoについては、昨年提唱したInterCloudがどう進むのか、今年は注目だ。ワークロードをクラウド間で移動させるという構想が、どのようなメリットを参加パートナーとユーザに与えるのか、その中でCiscoの役割とは何か、この辺の共感を呼び込むことが出来るかが鍵だ。今年は具体的な形が見えてくる(別途、報告予定)。同社の立ち位置はオープン領域であり、インフラベースの横展開である。
◆ EMC/VMware連合の行方!
VMwareはハイブリッド時代を見据え、2013年5月、Public Cloud(現VMware vCloud Air)を発表。これによってユーザは同一技術でHybrid化が可能となったが、一種の囲い込みでもあった。現在β版のVIOはOpenStackの主要部を統合するものとして注目に値する。また親会社のEMCもSDS対応が急務となり、これらの状況を打開すべく、昨年10月末、EMC Enterprise Hybrid Cloudを発表した。これまでのグループ各社の個別戦略から、全体をシャッフルして連合製品として拡大させる意向のようである。(詳細はここ)
◆ Googleは新事業展開に賭けるのか?
このところやや元気の見えないGoogleがどう動くのかは気になるところだ。幾つか戦略再設定と関わる動きがある。ひとつはBig Dataへの傾斜だ。Hadoopよりも高速なBigQueryが登場し、時はまさにIoTのBigData時代へと進む。もうひとつは新事業への加速だ思う。次回、詳しく述べるが、これはAmazon対抗として、またクラウド利用の新分野開拓という面を合わせ持つ。Googleの立ち位置は決してオープンではないが、今年は上位シフトは鮮明になる筈だ。
◆ HPのHelionはTake Offへ!HPにとって今年は正念場である。 動き始めたHelionをまずは軌道に乗せなければならない。クラウド事業は、HPにとって、ハードビジネスだけに頼らない次世代中核ビジネスとしての意味がある。HPの立ち位置は完全なオープンだ。全ては、現CTOのMartin Fink氏(EVP)、Rackspaceから開発部門の責任者として参加したMark Interrante氏(SVP)、さらにEucalyptusの売却に伴って移籍したビジネス部門GMのMarten Mickos氏(EVP)が上手く機能するかにかかっている。
◆ IBMはオンプレでどう戦うか!
クラウドもいよいよオンプレ市場が戦いの場となってきた。これまでの企業IT資産をどのようにクラウドに移行し、さらに今後はどのように開発を進めるかがポイントだ。IBMはそのためPaaSの開発実行環境としてBluemixの整備を急いできた。IaaSはSoftLayerとし、PaaSはこれまでのIT資産の継承ツールとしてだけでなく、ますます重要となるモバイルやBigData領域もカバーする。その意味でIBMの狙いは上位シフトだ。後はOpenStackによるPrivate Cloud対応が機能するかである。
◆ エンタープライズ市場を切り崩せるかMicrosoft!
今年、Microsoftにとって重要なことは、IBMと共にエンタープライズ市場への切込みがどの程度進むかである。切り札ははAzure Pack。これによってPrivate Cloudを加速させる。この戦略の成否はパートナー各社の努力にかかっている。IBMとPaaS領域で多面的な提携もした(発表)。さらにOffice 365やDynamics CRMなどで上位シフトを強め、Amazonを追う(詳細はここ)。先週、MicrosoftはWindows 10をWindows 7以降のユーザに限り無償アップグレードが出来ることを発表した。クラウドを戦略の中心に置く同社とって、これはすそ野を広げる種まきのひとつと見られる。
◆ Rackspaceはフリーハンドだ!
Rackspaceはホワイトナイト探しの後、急速に立て直しを図ってきた(詳しくはここ)。大きな戦略再設定のひとつは、Microsoftのコラボサーバ(Exchange、Lync、SharePoint)のManaged HostingやGoogle Appsの代行管理サポートに見られる上位シフトだ。もうひとつはHybrid Cloudである。これについて、同社はPublicとPrivateを繋ぐだけでなく、Dedicated Serverの接続も重要だと考えている。その仕組みがRackConnectだ。この3つが揃ってこそ、企業にとって安全で廉価なオンプレ対応クラウドが出来上がる。昨年11月にはMicrosoftと提携してAzure Packの適用検討も始まった。VMwareのHosting経験もある。横展開が目指すのはユニバーサルクラウドかもしれない。
=2015年を占う!=
2015年は新たな戦いの始まりである。「エンタープライズ市場の戦い」と「プロプライエタリーとオープンのせめぎ合い」だ。エンタープライズ市場ではIBMとMicrosoftが先行するAmazonにどれだけ肉薄できるのか、「プロプライエタリーとオープンのせめぎ合い」では新たな構図が見えるかがポイントである。ポジションマッピング図で示したように、先行するAmazonやMicrosoftはプロプライエタリー領域にいる。しかしIBMはどちらかと言えばオープン領域だ。今年から本格化する第2ラウンドでは、Hybrid CloudやInterCloudのようにクラウド間接続が大きな技術要件だ。そのためにはオープン性が欠かせない。OpenStackを御旗にして、この領域のCiscoやHP、Rackspace、そしてIBMが結束すればAmazonやMicrosoftに対抗できる。IBMはPrivate Cloudで既にOpenStackを提案することを決めた。IBMが柔軟に、リーダーシップを発揮して、OpenStackとの共存を進めれば、全体の構図に変化が起こるかもしれない。