2016年1月6日水曜日

デジタルメディスンのProteus -IoT(4)

前回はIoT分野のVC投資ランキングを取り上げ、第1位になったスマートガラス開発のViewについて紹介した。IoTというと、ウェアラブルのような一般向けのやや軽いものをイメージされる読者も多いと思う。しかし、それだけではない。昨年末に紹介したHP Enterpriseのギャザリングシステムは、分散した工場内の膨大な数の機械情報を収集し、保守時期の決定や故障予防などへの活躍が期待されている。Viewのスマートガラスも量産が進めば、オフィスだけでなく、一般住宅への適用も可能となり、我々を取り巻くエネルギー環境は一変する。今回紹介するのは、VC投資ランキング第2位のProteusだ。同社も医療分野の今日的課題解決に取り組んでいる。


=Proteusの開発したデジタルメディスンとな何か!= 
スタートアップのProteus Digital Healthはデジタルメディスン(Digital Medicine)を開発している。デジタルメディスンとは服薬測定ツールのことだ。米国の統計によると、医師が処方した投薬の50%が服用されず、この傾向は特に治療期間の長い慢性疾患に顕著だという。これはお金の無駄遣いだけでなく、治癒の遅れをもたらす。この状況を改善するのがデジタルメディスンだ。患者は該社の開発した1mm角のICチップを埋め込んだ錠剤を服用し、体に貼ったパッチでICチップの発信情報を収集する。ICチップからは服用薬の種類や量、摂取日時など、パッチ自体からも体温や心拍数などの情報が検出され、患者はそれらをスマホやタブレット上で確認できる。これらの情報はさらにクラウド経由で医療機関へ伝達されて、医師は患者の服薬状況などを知ることができる。もし問題があれば医師から患者にメッセージを送ることも可能だ。 

=大塚製薬との提携=
処方薬の多くが服用されないという問題は、高齢化が進む日本の方が深刻かもしれない。さてProteusは実用化に向け、日本の大塚製薬と提携して共同開発が始まった。プロジェクトはProteusのICチップを長期治療が欠かせない大塚製薬の精神障害治療薬(アリピプラゾール)に組み込んだ錠剤開発だ。プロジェクトは昨年9月、この新錠剤が臨床試験を経て、米食品医薬品局FDAによって承認された。今年から本格的な適用が始まる。 

=集めた資金は440億円超、問題はこれからだ!=
これまでの道程は長かった。同社の前身はProteusBiomedical、創業は2001年だった。これまでに調達した資金総額は$367.2M(約440億円)。最初のSeries-Aの面倒を見てくれたのはスペイン系ポータル運営企業のTerra Lycos、Series-B以降はAsset Management Venturesに何度となく助けてもらい、直近のSeries-Fでは香港のYuan Capitalが$172M(206億円)の資金を用意してくれた。

しかし、問題はこれからである。 デジタルメディスンの普及で未服用薬を大幅に減らすには、大きなシステム改良が不可欠だ。現状は精神障害治療に限定されている。何故なら、錠剤が高価で治療期間が長く、医師が投薬効果を厳密にモニターしなければ改善が難しい病気だからである。今後、錠剤内のICチップの価格が限りなく下がり、パッチの抜本的な改良が出来れば普及に弾みがつく。上手く行けば、経済効果だけでなく、治療効果の向上など世界的規模の改善ができる。