2017年4月17日月曜日

AutoTech(19) Appleの戦略転換!   
             -Appleの自動運転とは何か?-

先週の金曜日Wall Street JournalNew York Timesなど各紙はAppleがカリフォルニアで自動運転のテストを開始すると報じた。きっかけとなったのは、カリフォルニア州のDepartment of Motor Vehicles(DMV)サイトの自動運転車公道テスト許可リストの最後となる30番目にApple Inc.が掲載されたことである。こうして大騒ぎとなり、報道合戦が始まった。報道によると、DMVの話として、3台のLexus RX450hとそれを操作する6人のドライバーに許可があたえられたとのこと。解ったことはそれだけだ。

=Project Titanの憂鬱=
 当サイトでは昨年9月13日付けで、Apple Project Titanの憂鬱という記事を掲載した。この記事を振り返り、少し整理を試みよう。プロジェクトが始まったのは2014年のこと。この世界の開発競争は凄まじい。他社に追いつけるのか、不安が募った2015年3月の Apple株主総会ではTesla買収提案まで投げかけられた。しかし、何も起こらなかった。Appleは人材をかき集め、巨費をつぎ込んでオートノマスビークル(自動運転車-Autonomous Vehicle)の自力開発に突き進んだ。だが上手く行かず、元FordのエンジニアでAppleに16年在籍したSteve Zadesky氏が昨年1月に退社。彼こそドリームカー、つまりiCar(コードネーム:Titan)のリード役だった。それから半年、後任人事は難航し、SGIからAppleに移り、長年、ハードウェア部門のトップとして活躍してきたBob Mansfield氏が返り咲きとなった。そして昨年7月末には、車載機などに使われるリアルタイムOS QNXの共同開発者兼元CEOのDan Dodge氏がApple入りし、Mansfield氏のもとで働くことになった。ただ、この空白の半年の間、1,000名を超えると思われたプロジェクトは動揺し、多くの退職者が出たという。多くの報道は、ここまでで、それ以降の話は途絶えていた。

 =QNX連携に転換か!=  
Dan Dodge氏のApple入社には重大な意味がある
ここからは筆者の想像だ。Appleは昨年初めの時点で戦略転換を決めた。つまり、自動運転車の開発を止め、新たな方向に向かい出した。その答えはQNXにある。QNXはカーナビ等車載機OSとして定評があり、安定性やセキュリティーなど多くの実績を持っている。そしてAppleとはパートナー関係だ。Appleにはこの分野と関連するMapsInfotainmentを扱CarPlayがあり、QNXとiPhone/iPadの連携ができる。昨年のCES 2016でQNXはNew Platform; Automated Driving Systemを発表。これはQNX上でAdvanced Driver Assistance Systems (ADAS-運転者支援)を実現するQNX Platform for ADASがベースだ。これで全体の流れが読めるだろう。Appleは車の開発をあきらめ、このプラットフォームとの連携に舵を切ったのだ。CES 2016の前後、この製品を精査し、乗り換えを決め、新しいボスとQNXからDan Dodge氏を招へいしたこの戦略変更に伴って、Appleは昨年1月、QNXのあるオンタリオ州に大きなオフィスを借りた。ここが新たな戦略のR&Dセンターだ。Dodge氏にはかなりのエンジニアがQNXからついてきた。そしてQNXもAutonomous Vehicle Innovation Centre(AVIC)を開設し、両社のエンジンが回りだした。


=新戦略はiPhone/iPadビジネスを支える!=
こうして、Project Titanは、オートノマスビークルからCarPlayを活かす新たなCar OS開発へと方向転換した。主力製品のiPhone/iPadを活かしながら、自動運転を探る道である。QNXは1980年、学生だったGordon Bell氏とDan Dodge氏の二人がUnixベースのRealtime OSを開発したことが始りである。社名はQuantum Software Systems、その後、QNX Software Systemsとなり、そして、2004年、米車載機メーカーのHarman Internationalに買収された。この時期から車載機OSへの特化が鮮明となった。2010年にはReseach in Mortion(現BlackBerry)に譲渡され、QNXと統合したBlackBerryも登場。Cisco IOSもQNXベースと言われている。
そして、今度はiOSとQNXの統合である。 競合各社の実車テストはまっさかりだ。何としてもAppleらしい製品に仕上げたい。技術的にはカーナビはiPhone/iPadで対応し、自動運転はQNX上で処理する。カリフォルニア州のDMVから認可されたテスト用のLexus RX450hにはQNXの車載機が装備されるだろう。そして、新たなCar OSが試される。QNXを支持する車載機ベンダーは多く、現在、世界中の約6,000万台に搭載されている。このQNXユーザーに膨大なiPhone/iPadのユーザーを組み合わせることが出来れば大きな市場となる。新規に車を開発するのではない。現実的なソリューションを見出すのだ。自動車メーカーがこれを採用するか、車載機ベンダーが幾つかのセンサーを組み合わせた自動運転キットを開発するか、もしかしたら、Appleから自社ブランドの自動運転キットだって飛び出す可能性がある
まだ、想像の域を出ないが、いずれその姿が見えてくる。