Bill Gate氏からChief Software Architectを引き継いだRay Ozzie氏 のMicrosoft退社(10/18発表)が気にかかる。氏がMicrosoftのクラウドを推進してきた中心人物だからだ。Gates氏がそうだったように、Ozzie氏はMicrosoft製品全域の方向性や基本的な考え方をソフトウェア構造の中に反映して、これまでの流れを牽引してきた。オンラインサービスの “Windows Live”やクラウドの“Windows Azure”などだ。Gates氏の全幅の信頼があった氏の突然の退社、それは氏の社内挫折ではないかと捉えることは自然なことであろう。それを裏付けるように、氏は個人的なブログ(10/28付)の中で以下(要約)のように述べている。
◆ Dawn of New Day(新しい日の夜明け)
5年前(Chief Software Architect就任)、Microsoftに大きな変化を起こさせるために、私は“Internet Services Disruption(インターネットサービスの崩壊)”というメモを書き、その冒頭で5年毎に我われの産業は大きな変化に見舞われるようになるだろうと予測しました。事実、その後の5年間、会社中でこれまでのPC中心からサービス中心にむけた変革に取り組むことになりました。
サービスの中心となった“Seamless-OS(継ぎ目のないOS)”では、オプションでしたがWindowsとOffice Softwareを自然なサービスとして補完すべく、Windows Liveを提供しました。そして“Seamless-Productivity(継ぎ目のない生産性)”では、Office 2010からOffice 365、SharePointからLiveへとWeb連携を推進させました。“Seamless-Entertainment(継ぎ目のないエンターテイ メント)”でもXbox Liveは、Xboxをリアルタイムで、ソシアルで、メディアリッチなTVエクスペリエンスへと変化させました。全てがサービスへの流れです。さらに “Service Platform”の領域では、Windows AzureとSQL Azureがクラウドとなって登場したことを本当に誇り思います。実際のところ、このメモだけでなく、議論や社内リーダーたちによって革新的なサービスが次々に作られ、新しい検索サービス“Bing”はこうして開花しました。我われのサーバー資産は、仮想化とクラウドコンピューティングの登場で際立った移行を可能とするところまで到達しました。私にとってもっとも重要であり、また誇りに思うことは、競争原理の上でインターオペラビリティーとプライバシーの文化を熟成させ、本物の開放性を勝ち得てきたことです。
それでも5年前のメモの幾つかはそのまま手付かずに残っています。我われの競合相手 もインターネット中心の社会的推移の中で、モバイルなど注目に値する開発を行い、ハードウェアとソフトウェアの融合を推進してきました。このように、我われは機敏な開発こそが、背面で起こっている劇的な変化を吸収し得るものだということを見てきました。これらの変化は以前から予測されてきました。しかし、 この5年の変化はWiFi、3G/4Gなど想像を超えるものでした。それらは今、当然のことのように人々に受け止められています。過去を見れば、 “System Board”が四角なPCボックスとなり、今では“Systems on Chip’がピカピカなデザインのデバイスを作り上げ、大きなCRTは軽量薄型のタッチスクリーンに置き換わり、企業内組織や業務の流れはインターネット時代に沿ったものとなりました。このような変化を受け、生産者と消費者の壁も消え、古典的な流通機構は崩壊し、世界中で、あらゆる産業が再構築されてきま した。この再考作業は、もっとも基本的な構造信条を疑うことから始まります。そうすることで、生き残るための知恵ができるのです。過去5年間は息を呑むようでした。次の5年は、もうひとつの変曲点の始まりです。
-Imagining A "Post-PC" World(次世代PCとは)-
2010 年11月20日、それはMicrosoftにとって記念となる日です。Windows 1.0の開始から25年目にあたるからです。我われのこれまでの開発は、「個人的なコンピュータ」という夢のような大胆な概念を支持することから始まりま した。Windowsは初のGUIではなかったかもしれません。しかし、時間の経過と共に世界中で10億人以上が利用し、コンピューティングとコミュニ ケー ションを民主化してきました。そしてWindowsとOffice製品は、PCを規定するほどに成長しました。さらにPCにインストールされたプログラムやファイルなどによって、私たちは“Computing”というものを体感し、ブラウザーやインターネットさえ見分けがつかないほどに成長したのです。しかしこの裏側で、PCクライアントとPCベースのサーバーも25年にわたって成長し続け、結果、巨大な“複雑さ(Complexity)”も生み出してきま した。この複雑さは多面的で、今日では超人的なエンジニアリングとデザイン才能がなければシステム構築ができないまでに膨張しました。複雑さはユーザーやデベロッパー、さらにはITの生命を吸いとります。複雑さはセキュリティー問題や運用管理者の欲求不満を引き起こし、そしてシステムを殺すのです。複雑に なったシステム同士の相互連携によって、複雑さはさらに増長され、我われの持つ全世界のシステムは全体にもろくなってきています。このように見ると、成長 してきたPCの生態系は今や限界に近づきつつあると言っても過言ではありません。我われは新しい道を探らなければなりません。そのための第1歩は恐れずに想像すること、そして夢を追うことです。
-Continuous Service | Connected Devices
(連続したサービス|接続されたデバイ ス)
過去5年を振り返ると、夢を見るような出来事の連続でした。確かに「ネット接続したPCとPCベースのサーバーは素晴らしい IT」を推進してきました。しかし、ゆっくりと確実に次世代が始まっています。特に強力なコミュニケーションとアプリケーション能力を持つモバイルやパッドの出現には目を見張るものがあります。それらはこれまでのPCを遠のけ、より単純な概念を求めています。それによって新しい世界が開けるのです。 Webと接続されたデバイス、それは全ての情報がクラウド上にあることを期待しています。我われは1)全てを繋いだクラウドベースの連続したサービスと、 2)そのサービスとインタラクション(やり取り)が出来るアプライアンスのようなネット接続デバイスの世界に向かっています。
-How It Might Happen(それはどのように起こるのか)
過去25年にわたり開発してきたデバイス中心(Device Centric)のハードウェアとソフトウェアの世界から、この新しい時代を切り開くことは容易ではありません。しかしこれは実現させなくてはなりません。以前、メインフレームやミニコンピュータの代わりとしてPCを登場させたように、劇的な新しい出来事を起こすことは可能です。産業再生の次の波が あるならば、「インターネットに接続した連続サービスとデバイス」という関係が新しいシンプルな概念のもとで実現されるでしょう。しばらく時間がかかるかも知れません。
しかし私はそれを信じています。
-Realizing a Dream(夢を実現する)
1939年、ニューヨーク、古今でもっとも素晴らしいとされた万博がありました。
失業率が17%を上回る大恐慌で疲れた人々を、この万博は勇気づけてくれました。
世界中の国々や産業界のパビリオンは夢にあふれ、明日への世界、将来のイメージを演出しました。その万博のテーマは、そう「Dawn of New Day(新しい日の夜明け)」です。この夢の万博のお陰で、ハイウェイの建設や郊外住宅などへの希望が湧き上がり、翌年の製造業は50%と驚異的な成長を実現しました。期待を持って望めば、何事も成し遂げられ るのです。
今日、私自身の夢は、我われの産業のため、そしてMicrosoftのために広がっています。それは驚くべき将来、クラウド中心 (Cloud Centric)の世界です。疑いなく1939年と同じような、不確実な状況が私たちを、今日、包み込んでいます。仕事、住宅、健康、教育、治安、環境など。我が社についても同様です。だから、厳しく、俊敏に、夢を持って、
そして、希望と楽観主義で望むべきなのです。我われの状況を打破する全ての回答は
“クラウド(Cloud Computing)”にあります。ネットに接続された全てのデバイスは、クラウド上の連続したサービスと連携し、限りなく展開されることになります。クラウドは世界中の主要組織の基盤となり、ITシステムはもちろん、ビジネスプロセスをも進化させる触媒となります。それによって、新しいサービスは想像も出来ないほど魅力的な姿となるはずです。モバイルやパッドはほんの手始めです。次の5年、それは「新しい日の夜明け」です。太陽はクラウドによって提供される連続したサービスとネット接続されたデバイスの上に輝きます。Microsoftはこの歴史的なコースに上手く乗り始めました。恐れずに挑戦 し、次の5年のマイルストーンを祝いましょう。
我われのために、産業のために、そして顧客のために。。。。
-Ray Ozzie氏の退社の意味するもの
このブログの内容は、挿入画 面にあるように宛先が「Executive Staff」と「Direct Reports」となっている。つまり、私的ブログと同じ内容がMicsoftの経営幹部に流されているのだろう。これは氏の葛藤の末の惜別のメッセージである。これを読むと、氏のクラウドに賭けた熱い思いが伝わってくる。氏が心血を注いだWindows AzureとSQL Azure。Windows Azure、それはVisual Studioで開発したアプリケーションをオンプレミスでもクラウドでも自在に稼働させることができるプラットフォームであり、SQL Azureは初の本格的なDaaS(Database as a Service)として、どのようなデータもクラウド上に蓄えることができる。この2つを基本にMicrosoftが持つこれまでの製品や資産を、段階的にクラウドと連携させていく。これが氏が描いていたストーリーだ。これによって絶え間ない連続したサービスとネット接続デバイスの未来が開けてくる筈だった。しかし、一方で企業は常に利益を追供する。特に米国企業の場合は厳しい。次の5年の波に乗り換える時でさえも、片時の猶予も与えてくれ ない。夢と現実の狭間(ハザマ)で氏の立場は揺れ動いたに違いない。
願わくば、Microsoftのクラウド戦略に今後大きな変化がないことを祈るばかりである。
(この翻訳が文意を優先したこと、一部、詳細を割愛したことを陳謝します)