2011年3月17日木曜日

クラウドプレイヤーのポジション分析(1) 
          -Magic Quadrant for Cloud Player-

Gartnerより出された興味ある報告「Magic Quadrant Cloud Computing」がある。
この報告書の冒頭、クラウド のインフラサービスは、コスト削減や利用が簡便で俊敏性があることなどから、米国では主にWebホスティング市場で成長していると指摘。
過 去5年間、米ホスティング市場は専用サーバーからオンデマンドや使用量払いなどへと進み、さらに、この2年間はクラウドの登場で業界地図が変わり始めた。 報告書では本年末には、クラウド利用によるWebホスティングは、全ホスティング市場の25%に達すると予測する。

◆ 2つのタイプのクラウドユーザー!
クラウドの登場によって、この市場に は従来型のホスティング業者以外に、大手通信事業者(Carriers)や受託業者(Outsourcer)などが相次いで参入した。ユーザーには2つのタイプがある。ひとつは伝統的なWebホスティングの顧客層だ。彼らは既にWeb
サイトやアプリケーションを持ち、より安価なホスティングをクラウドに期待している。
もうひとつのタイプはクラウドを使うことで、自分たちのビジネスに何が起こるのかに興味があるグループだ。後者のグループは、 パイロットシステムから始め、少しづつクラウド化する傾向にある。

◆ 従来型を追うクラウド型、そしてホスティングは統合する!
しかしながら、米Webホスティング市場は成熟し、プロバ イダーの完成度(Software Stack、Operational Level、Technical Support etc)は高い。対して、クラウドIaaSは始まったばかりだ。そして、これまでのホスティングアーキテクチャーDHA(Dedicated Hosting Architecture)に近づくべく、4半期に数度の機能アップが行われている。それでも現時点で見れば、まだ殆どのプロバイダーでは、異なるプラッ トフォーム上で、従来型とクラウド型の2つを提供している。しかし今後、5年程度でこの状況は変わり、それらはひとつのプラットフォームに収束されるだろ う。この2つには本質的な技術差はないからだ。ただプロバイダーにとって、クラウドIaaSの導入、そして2つの統合が、経営上、重荷になっていることは 否めない。

◆ マジッククォードラント分析(Magic Quadrant Analysis)
マジッククォードラント分析とは、Gartnerが市場分析の際に用いる手法で、4つの領域 を2つのベクトルで見分ける方法である。発表されたクラウド分析は下図のようになった。
ここで4つの領域は、リーダー(Leaders)、チャレ ンジャー(Challengers)、ビジョナリー (Visionaries)、ニッチプレーヤー(Niche Players)だ。そして、リーダーとは、この市場でエンタープライズ向けの実力があり、技術革新に余念がなく、幅広いユーザーを持っていること。チャ レンジャーは良質のサービスを提供しているが、従来型のWebホスティングプロバイダーとして市場に引きずられ、クラウドは後追いがちとなっているプロバ イダーだ。ビジョナリーとは、先頭を走るものとして、革新的な技術やアプローチを採用し、ロードマップを示してリーダーを目指すが、実力の証明はこれから である。ニッチプレーヤーは限定されたプロダクトを提供するスペシャリストで、大手とは違い、どこかの領域で突出しているプレイヤーだ。クォードラント分 析の2つのベクトルの縦軸は「実行能力(Ability to Execute)」、横軸は「ビジョンの完成度(Completeness of Vision)」を示す。以下がその結果である。


ここか らは、私見をもとに各領域についてのコメントを試みる。

=リーダー 領域=
この領域では、総合的にデータセンター最大手のSAVVISが優れ、Rackspraceは同社のRackspace CloudOpenStackな どで健闘、また、AT&T(2006年に買収したUSi -現エンタープライズ部門)やVerizon BusinessTerremark Worldwideなど実行力のある大手がひしめいている。つまり、キャリア大手のAT&TやVerizonなどは得意のIPネットワー ク技術を生かし、大手データセンターのSAVVISやRackspace、Terremarkは専門スタッフによる高品質サービスが特徴だ。ここで Terremark Worldwideは今年1月末、Verizonに買収されて傘下となっったが、まさに2つの特徴の統合である。
そして、 キャリアとデータセンターの両グループに共通するのは“マネージドホスティング(Managed Hosting)”のオプションがあることだ。この有料サービスを受ければ、ユーザーはソフトウェアのパッチ/バージョンアップ、データベースのバック アップ/リカバリーなどの煩わしい作業から開放される。もちろん、彼らの中にはAmazonなどと同様のセルフサービス型クラウドを提供しているところも あるが、今のところAmazonの場合はセルフサービス型のみであり、この点で一線を画している。

=ビジョナリー領域=
クラウドに関する大きなビジョンを持つ筆頭はもちろ んAmazon(AWS)だ。
Amazon の狙いはデベロッパー向けのコモディティー化したクラウドIaaSの推進である。Amazonは初期のIaaSから抜け出て、高速コンテンツデリバリーCloudFront、 メッセージキューSimple Queue、最近ではWebアプリケーションの自動セットアップBeanstalkや大量eメール処理Simple Emailなどもリーリス、徐々にPaaSに軸足を移しつつある。この領域で続くのは、オープ ンソースを徹底的に使いこなして、LinkedInやMLB、Walt Disneyなどの大型ホスティングを手がけてきたJoyentだ。Facebookも初期段階は 同社にホスティングしていたというから実力は理解できるだろう。同社のクラウドはSolaris Containerを使った仮想化で、OpenSolaris、Javaを全面に出したSunベースの唯一のプロバイダーである。さらに、ISP親会社 (ServePath)のクラウド部門として、初期からWindowsサポートを打ち出したGoGrid、エンジニアリング業務に強い大手 SIビジネスのCSCなどが続き、新 たな活路を求めるIBMも かろうじてここに入っている。

=チャレンジャー領域=
こ の領域のチャレンジャーたちは、基本的にホスティングで成長し、その経験をクラウドに活かしているプロバイダーだ。例をあげると、アプリケーションマネー ジメントを武器にしたNaviSite、 ASP(Application Service Provider)時代に培ったISVチャネルを活かしてISV向けSaaSプラットフォームを提供するOpSource、ホスティングで急成長し てきた経験をプライベートクラウド構築と他社パブリックに生かすDatapipe、BCP(Business Continuity Plan)に特徴を持つ大手データセンターのSunGardな どである。

=ニッチプレイヤー領域=
もっとも個 性的なのはニッチプレイヤーたちだ。例えば、Layered TechはCA-3TeraのAppLogic適用のクラウドを運用しているし、Media Templeは ParallelsのVirtuozzo Containersを採用している。前者はLinuxの仮想化に特化し、後者はOSの仮想化技術(1つのOSの上に複数のセキュアーな仮想空間を作成) で、これによって廉価なWebホスティングが可能となる。次にCarpathia HostingSoftLayerの2社は、小柄で一般に知名度 は低いが優れものである。両社共にCitirix Xenベースのクラウドを提供し、Carpathiaは公共関連市場に特化、SoftLayerはセルフマネージメントに特徴を持つ。そして両社はパート ナーと共に連邦政府のクラウドポータルApps.govのIaaSサービス提供企業候補に選ばれた。同様にHosting.comも小規模ながら VMwareのvCloud Intiativeのメンバーだ。NTT CommunicationsVerioの子会社化やOpSourceとの資本関係を持つが、日本市場ではなく、米国市場ということでニッチ 扱いとなっている。次回は各社を個別に見てみよう。