2011年3月1日火曜日

好調なRackspace、そして買収
               -Anso Labs & CloudKick-

Rackspaceの 買収が活発だ。
この背景には同社の好調な営業活動がある。

  Rackspace、2010年度決算
2月10日に発表された2010年度決算では、総売上げ が前年比24.1%増の$780.6M(前年$629.0)となった。うち、ホスティング(Managed Hosting)売上げは17.8 %増の$679.9(前年$572.6)、ユーザー数は19,396社(前年19,304社)と若干の増加だった。一方、クラウド売上げは78.5%増と 大きく伸びて$100.7 (同$56.4)、ユーザー数も11.1万と2009年の7.2万 から54.2%と急伸して絶好調だ。ちなみに、従業員は前年の 2,774人から昨年末には3,262人へ、展開するサーバー数も56,671台から約1万台増えて66,051台となった。

◆ 価格戦略とマネージドサービス
この好調の要因となっているのはその戦略 である。
ひとつは価格(提供インスタンス)の細かさ、もうひとつはサービスだ。
Rackspaceの提供するクラウドはAmazon Web Service(AWS)に比べて、インスタンスの種類が多い。AWS最小のSmall Instance(32ビット)は$1.7GBのメモリーと160GBのディスクで¢10($0.10)だが、Rackspace Cloudでは、これ以下にメモリーが256MB、512MB、1GBと3つの仕様(全て64ビット)がある。最小なら256MBのメモリーと10GB ディスクで¢1.5($0.015)-月額$10.95、つまり、1ヶ月使ってたった1,000円だ。さらにEC2のSmallとLargeの間に2つ、 LargeとExtra Large間に1つ、Extra Largeの上に1つと多様なインスタンスが揃っている。昨年9月にAmazonが発表したMicro Instanceはこれへの対抗と考えてよい。サービス面でもAmazonが対応していないホス ティング同様のManaged Service、3rd Party Software Support、ホスティングで使用するDedicated Serverとのハイブリッドなどが武器だ。

◆ Anso Labsの買収とOpenStack
そして2 月11日、RackspaceがAnso Labsを買収すると発表した。
Anso Labsは同社がNASAと進めるクラウドインフラOpenStackのキーコントリビュー タである。実際のところ、 NASAのクラウドNebulaのCompute Engineは、当初予定したEucalyptusから自主開発のNovaに切り替えた。このデザインと開発に携わったのがAnso Labsだ。買収の狙いははっきりしている。OpenStackプロジェクトのガバナンスだ。昨年夏にスタートしたOpenStackには、 RackspaceがStorage Engine、NASAがNovaで開発したCompute Engineを提供している。その後、昨年10月に第1版=Austin=、今年2月始めには第2版=Bexar=がリリースされた。この間、第2版のた めのDesign Summitが盛況のうちに開かれたが、期待が大きい分盛り込む機能も多く、その絞込みにはかなりてこずった。つまり、プロジェクトをどのように運営して 行くかという文化がまだ出来ていないのだ。Anso Labsへの期待はここにある。特に今年はOpenStackの実戦適用の年となる。
そのた めの第3版=Cactus=のリリースをどのように円滑に行うか、これが上手く行かなければプロジェクトは成功しない。Anso LabsのCEO Jesse Andrews氏は、ソシアルブラウザーFlockの 元リードアーキテクト、COOのSoo Choi女史は、コンサル企業Booz Allen Hamiltonの元役員で大規模プロジェクト管理のプロである。この2人がAnso Labsの共同創設者だ。さらにNebula Nova開発のリードエンジニアはAnso LabsのVishvananda Ishava氏だ。彼らがこれまで以上、積極的にプロジェクトに関与すればOpenStackは離陸するだろう。
しかしこの買収で OpenStackの運営がどうなるのか、心配がないわけではない。
プロジェクト最上位のOpenStack Architecture Boardは4人で構成され、これまではRackspaceから2人、Anso Labsから1人、Citrixから1人だった。この買収で3/4がRackspace側の人間となった。同様に9人構成のProject Oversight CommitteeもこれまではAnso Labsが3人、Rackspaceから5人、Citrixから1人だったが、今度は8/9がRackspace側だ。買収発表後、Rackspaceは プロジェクトへの説明を繰り返し、この買収はプロジェクトへの貢献のためだとしているが、それでもメンバー構成には今後一考がいるであろう。

◆  Cloud Kickの買収
Anso Labsに先立ち、Rackspaceは、昨年12月16日、クラウドサーバーマネージメントのCloud Kickも買収した。 Cloudkickは
複数のクラウドやオンプレミスのサーバーを一元的に管理できるサービスである。対応するクラウドはAmazonやlinode.comGoGridSoftLayerSlicehost、 Rackspace、RimuHostingVPS.NETの8社だ。これらのクラウド上のサー バーをダッシュボードでモニタリング(Server Name & Status、IP Address、CPU、Memory、Disk etc)したり、追加/削除などの管理ができる。Cloud Kickのモニタリングの仕組みは、サポートするクラウド提供の運用管理APIを利用して行うが、これも前回述べたRightScaleのようにバラバラ な仕様を繋ぎ合せるのは容易なことではない。
このようなモニタリングでは、オープンソースのNagiosHypericGround WorkZenossなどが有名だが、差異はアクセス方法と狙いだ。NagiosなどはSNMP (Simple Network Management Protocol)など多様なネットワークプロトコルを用いて、ネットワークシステム全体を詳細にモニタリングする。一方Cloud KickはクラウドAPIを用い、運用の実務管理という視点から、ひとつのダッシュボードで全てのサーバーが色分けされて管理ができる。かつ、オンプレミ ス監視用にはDebian、Ubuntu、CentOS/RHEL、Fedora、Gentoo、Windowsのエージェントも用意されている。

◆  目指すはハイブリッドクラウドマネージメント
Rackspace によるCloud Kick買収はAmazonへの対抗だという声もある。
確かに、この買収に先立ち昨年12月3日、AmazonはCloudWatchの機能追加を発表した。この追加でEC2やEBS(Elastic Block Store)、RDS(Relational Database Service)、ELB(Elastic Load Balancer)などのメトリックにアラームやアクションの設定が可能となり、EC2監視の一部も無償化となった。勿論、CloudWatchはAWS だけだが、追う立場のRackspaceはそれでは不十分である。この買収でマルチクラウドをカバーし、その中にはRackspace Cloudだけでなく、傘下のSlicehost(2008年に買収)も含まれている。そして、自社のホスティングを加えたハイブリッドクラウドのマネー ジメントも視野に入った。

-------------------------------
Rackspaceの動きは好調な営 業活動に支えられている。
同社のクラウドの伸びは前年比80%増に近い。Amazonの伸び(1月末速報)も大きく、
(クラウドの個別値は公表されていないが)、推定(当方の試算)では前年比45%程度の増加と見られる。

今回報告した2つの買収は、Rackspaceにとって大きな意味を持 つ。
Anso LabsはOpenStackの実用化に向けたプロジェクトの補強であり、今後の運営が注目だ。OpenStackは通常のオープンソースプロジェクトと は違う。時間に余裕がないからだ。何としても年内に、新たなクラウドインフラの地位を築きあげなければいけない。もうひとつのCloud Kickの買収、これは即戦力としての活用が期待されている。
いよいよクラウドは本物になってきた。