2016年4月10日日曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(2)!
              -鍵を握るVMware株-


第1回ではDell-EMC買収の仕組みと資金調達について状況を整理した。
その中で、VMware株価の重要性について触れた。昨年10月、DellによるEMCの買収発表後、EMCが81%を保有するVMwareの株価は大きく下げ、現在も低迷状態にある。発表時に$80強だった株価は、4月8日現在、$52だ。2月23日にはFTCの反トラストがクリアーされ、1回目の資金調達が始まった。このめどが立てば、合併の目鼻がつくかもしれない。問題はVMware株である。今回はこのVMware株について考えてみたい。

=両社が抱える特殊事情!=
今回の合併は何が大変なのだろうか。
通常の企業買収では、買収先の株式を評価し、1株当たりいくらと決めて現金で買い取る。手元資金が少なければ、自社株を買収先の株主に配布してバランスをとる。つまり、買収先のマーケットキャップ( 時価総額)がどの程度なのか、それによって資金を用意し、資金不足があれば差額を自社株で補てんする仕組みだ。しかし今回の買収は少し事情が違う。買収側のDellは、2003年のBuyoutによって、現在は未上場企業である。よって株式の補てんは出来ず、買収後はEMCも非上場となる予定だ。この2社間だけを考えると、EMCの時価総額は発表時点で$53.4B(約6兆4千億円)なので、これにプレミアをつければ良い。しかし、Dellから提示された買収額は$67B(約8兆円)だ。この金額は高すぎると思うかもしれない。そうではない。何故かというと、買収されるEMCには、81%を保有するVMwareという優良企業がある。つまり、EMCを買い取るということは、間接的にはVMwareも手に入れることになる。買収時のVMwareのマーケットキャップは$33.2B(約4兆円)。この部分をどう評価するかだ。2社のマーケットキャップの単純合計は$86.6B、EMCのVMware持ち分の8賭けをした計算では、約$80B(約9兆6千億円)となる。しかしDell側は資金的にこれ以上買い取り価格を引き上げられない。買収完了後、VMwareはそのまま上場企業として存続する。だからと言って無視し、EMCのマーケットキャップだけを対象とすることは出来ない。そこで考え出された方法が、EMCの株式に1株当たり$24.05を支払い、且つVMware業績連動株(Tracking Stock)を0.111株提供するという案である。
=VMwareの対応!=
報じられているによると、EMC分の1 株当たり$24.05は固定されている。買収発表時に提示されたEMC1株当たり$33.15という評価額は、この$24.05とVMwareの当時の株価$82に業績連動株の割り当て率0.111を賭けた$9.1を加えたものである。しかし現在、VMware株は大きく下げている。4月8日現在で$52.00だ。この値に割り当て率0.111を乗じると$5.77となり、このままでは合計で$29.82となってしまう。これではほとんどプレミアが無いに等しい。これが株価対策が急がれる理由である。この状況認識の上で、年初めCEOのPat Gelsinger氏は「2016年は大きくシナリオを変える年である」と宣言した。手始めに打った手は$55M~$65Mに相当する800人のリストラだ。これで利益を押し上げる。さらに役員人事にも手をつけた。これまでCFOだったJonathan Chadwick氏の交代を3月1日付で実施。後任CFOはZane Rowe氏が就任した。財務改善が狙いである。Rowe氏はこれまでEMCのCFOを長年務め、その実績を買われてVMwareに送り込まれてきた。EMCの発表では、EMCの後任CFOにDenis Cashman氏が内部昇格。これで組織構造の改革は形がついた。

=クラウド事業をどうするか!=
EMC/VMware連合にはもうひとつ悩みがある。
昨年5月、EMCが買収したVirtustreamの取扱いだ。この会社はクラウドプロバイダーとして、ユーザーに代わって運用管理を行うマネージドサービスが専門だ。買収動機ははっきりしている。VMwareの成長曲線を維持するためである。そして昨年10月12日、DellがEMCの買収を発表した直後の20日、このVirtustreamをEMCグループの総合的なクラウドビジネス企業とすると発表した。具体的にはEMCとVMwareが共同出資して新生Virtustreamとし、EMC独自のクラウドサービスやVirtustream自身のサービス、さらにVMwareが展開中のvCloud Air事業を統合する。しかしこの計画は昨年末、Dellの意向により撤退となった。巨額の買収資金の捻出を巡り、優良子会社であるVMwareの株価に悪影響を及ぼすからだという。ただ、この問題は解決したわけではない。仮想化ソフトが浸透した今、VMwareの判断は成長のためにはクラウドへの参入は欠かせなかった。そして始まったのがvCloud Airだ。しかしvCloud Airは普及が進まず、AWSやAzureに水を開けられている。この苦境を打開するために、今年2月にはIBMのSoftLayerと提携した。これは苦肉の策である。Virtustreamの買収金額は$1.2B(1,440億円)、EMCはこの対応に頭を痛めている。

=問題の本質は何か!=
こうしてEMCグループの戦略とDellの買収発表後の流れが交錯した。
果たしてこの買収は上手く行くだろうか。当面注力しなければならないのは、VMwareの株価を持ち直させことである。しかし真にVMwareの成長を考えるなら、要員カットや役員交代だけでは終わらない。仮想化市場は成熟し、投資家の目から見ると、ほとんどの企業に導入が進んだように見える。この状況を打開しなければならない。買収発表後、株価が大きく下げたのは、投資家の興味が薄れ始めたタイミングとたまたま重なったのか、それともDellによる買収が影響しているのか、それを解き明かす必要がある。これまでVMwareはEMCの保護のもと、順調に成長してきた。Joe Tucii氏率いるEMCは、人材的にも、戦略的にもVMwareを育てることに努力を惜しまなかった。今度はDellが、その役割を果たさなければならない。