2016年5月12日木曜日

Dell-EMCの合併はこれからが正念場だ(5)!
          -コンバージドインフラこそテーマだ!ー

5回続けたこの合併シリーズも今回で一度切り上げ、続編は別途報告しようと思う。そこで、最終回では新会社の進むべき方向について考えみたい。

=新社名はDell Technologies、そして2つのブランド=
先週(5/2-5)ラスベガスでEMC World 2016が開かれた。初日の注目は何と言ってもMichael Dell氏だった。氏が何を言うか。今回が最後の登壇となったEMCの現CEO Joe Tucii氏のプレゼンが終わり、Michael Dell氏が紹介された。まるで最後のJaveONEカンファレンスでSun会長だったScott McNealy氏がOracle CEOのLarry Ellison氏を紹介した時のようだ。Dell氏が語ったのは、新会社の社名やブランドを含めた方向性だ。グループの新会社名は“Dell Technologies”。EMCはここに統合され、VMwareやPivotal、RSA、Virtustream、VCE、またDellの子会社として先ごろIPOしたSecurityWorksなどが傘下となる。そしてDell Technologiesは2つの製品ブランド(Sub Brand)を持つ。企業向けにサーバーやストレージを扱う“Dell EMC”と一般向けパソコン用の“Dell”だ。HPは採算の悪いパソコン部門をHP Incとして切り離し、共倒れを防ぎながら、エンタープライズ事業を拡大する企業向けをHP Enterpriseとした。しかし、Dell Technologiesはサブブランドによって、2つの市場に対応する。これについて、Dell氏はIoTの到来で、クライアントとサーバーの両方を提供できる規模の大きい新会社の方が有利だと説明した。

=誰が新会社のかじ取りをするのか=
新会社の大きな枠組みは解ってきた。問題は誰がどうやってこの巨大企業のかじ取りをするかである。IT産業は成熟し、今や混沌の時代にある。IBMやHP、さらにはGoogleやMicrosoftなども更なる成長に向けてもがいている。どの企業の戦略が正しいのかは、まだ解らない。

◆ Michael Dell氏は適任か? 
Michael Dell氏はマーケティングの人である。
学生時代から始めたPCビジネスを軌道に乗せ、グローバル企業となった2004年にはKevin Rollins 氏にCEOを譲って、会長となった。Rollins氏はDellとは何かを考え、PCを核としながらもR&DM&Aへの取り組みを模索した。一方、Dell氏は流通方式の改善、そしてPCだけでなく、プリンターやTVなどへの製品ラインの拡大を主張した。戦略の不一致はあきらかとなって、Rollins氏は退社し、2007年、Dell氏がCEOに返り咲いた。当時、Rollins氏はPC事業の延長としてEMC買収を考えていたが、Dell氏はそれに反対だったと伝えられている。何とも皮肉な話である。2度目のCEOとなったDell氏は、更なる事業拡大のため、ITソリューションプロバイダーへの転身を掲げ、毎年数社づつスタートアップを買い続けた。しかし、これらの企業買収を通しても、Dellが向かう道は見えてこなかった。2013年には、仕掛けられた買収をMBOで乗り切って、以降Dell非公開企業となった。この時と今回の買収パートナーは同じSilver Lake Partners。漏れ聞こえてくる情報を分析すると、筆者はこのSilver Lakeが買収の真の仕掛け人ではないかと想像している。 

◆ Joe Tucii氏は退任へ!
EMCをここまで大きくしたのは戦略家のJoe Tucii氏である。
初期のEMCはボードメーカーだ、その後ストレージ事業へと転換した。この時期のCEOはMichael Ruettgers氏で、さらなる飛躍のために後任として白羽の矢を立てたのがJoe Tucii氏である。就任後、氏は2つのことを同時並行して進めた。ひとつはストレージ製品売り上げの拡大、もうひとつはソフトウェアやサービスなどの新事業領域の模索だ。前者はハイエンド指向が功を奏して大きく収益に貢献し、それを糧に多くのM&Aを実行した。特筆すべきは2004年に買収したVMwareである。同社育成のためにはTucii氏は努力を惜しまなかった。自らスカウトし、自分の両腕となっていたPaul Maritz氏(2代目CEO)やPat Gelsinger氏(3代目CEO)を送り込み、関連企業の買収にも積極的だった。しかし、氏は今回境に引退する。

◆ 新経営陣はどうなるのか
新経営陣を占ってみよう。以下はまったくの私見であることをお断りしておく。
まず、Dell氏がDell Technologiesのトップになることは間違いない。出来得ればDell氏が会長となり、その下に実務を取り仕切るCEOがスカウトできればベストだ。しかし当分の間はDell氏の会長兼CEOも大いにあり得る話である。新会社のCEOはエンタープライズ市場向けのDellサーバーとEMCストレージの両方を見なければならない重責だ。ただ、その下には実務的に、サーバー側は現Dellのエンタープライズ担当Marius Haas氏、ストレージ側は現EMC CEOのDavid Goulden氏が就く布陣となろう。そしてVMwareはPat Gelsinger氏、PivotalはRob Mee氏、さらにVirtustreamはRandy Rogers氏と現体制が維持されると思う。ただ、気になるのはこの買収劇で嫌気がさし、前回、報告したVMwareように有能な人材の刃こぼれである。
=目指すはコンバージドインフラだ!=
さて最後の課題、それは新会社の武器だ。
新会社は何に経営資源を集中させて、成長を目指すのか。以下は私見である。新グループのポートフォリオを見ると、ハードウェアとして、多様なサーバーとストレージ群、そしてクライアント機器には、各種のPC群とWyseシンクライアントターミナル群がある。Wyseは2012年にDellが傘下に収めたシンクライアントの専業メーカーだ。ソフトウェア分野は、両社とも多くの企業を傘下にに抱えている。それにもうひとつの資産がある。VCEだ。設立は2009年、EMCとCiscoのジョイントベンチャとして始まり、それにIntelとVMwareが投資した。同社がCisco製UCSにEMCのストレージ、VMwareのvSphereをインストールしたvBlock製品を発表したのは2009年。しかしVCEビジネスは成功したとは言い難い。そのVCEをEMCがジョイントベンチャーを解消して傘下に収めたのは2014年10月だ。Converged Infrastructure(コンバージドインフラ)時代を見据えてのことである。HPは過去、ソフトウェアサービスのEDSを傘下にしたが、十分には活かしきれなかった。今度はDell Technologiesの番である。時はまさにコンバージドインフラ時代に突入した。複雑化したソフトウェア群とハードウェア群、それらの最適化にユーザは悲鳴をあげている。この状況への回答こそ、新会社の進むべき道である。Wikibonの予測によれば2017年までにコンバージドインフラ市場は$402Bになるとみられている。内訳はストレージが11%、サーバーは17%、ネットワーク機器が7%、インフラソフトが17%、そしてサービスが46%だ。新生Dell Technologiesはこれらの殆どを持ち合わせている。この資産を上手く活かして、戦略立案と実行が出来るかが勝負である。