このところ、VMwareの大幅な人員削減発表や1Q決算も終わって、復調の兆しが見え始めてきた。ただ、大物幹部の退社も明らかになり、光と影が交錯している。
=1Q決算は上出来だ!=
2016年度1Qのカンファレンスコールが4月19日に行われた。1Q決算は総売り上げ約$1.6B(約1,748億円-1㌦110円換算)、前年同期比5%増となった。1Qのライセンス売り上げは$572M(約630億円)となって、昨年同期の$576Mに比べてやや落ちた。しかしサービス売り上げは昨年同期の$935Mから$1,017M(約1,120億円)へと増加し、営業利益(Non-GAAP Operating Margin)は28%アップである。この業績報告後、株価は$51.46(4/19)から $58.53(4/20)へと上昇、結果は大方のアナリストの予想に打ち勝つものとなった。株価は今年2月期の$43-$45を底に回復基調にある。
◆ サービス売り上げ拡大へ
今回の業績報告で見えてきた戦略は2つ。ひとつはライセンスビジネスからサービス売り上げへの転換だ。カンファレンスで新CFOとなったZane Rowe氏は、スタンドローンのvSphereライセンス売り上げが全体の35%弱になったと説明した。つまりvSphereの市場浸透が進み、核となるライセンスビジネスの伸び悩みが想像される。それを補完するのがサービスビジネスであろう。このサービス売り上げは、対前年同期比で8.8%となり、総売り上げ比の5%を上回っている。
◆ SDN/SDSライセンスビジネス開発
もうひとつはSDNのVMware NSXやSDSのVMware Virtual SANビジネスの掘り起こしだ。vSphareの伸び悩みは新規市場の飽和を意味する。その補完がサービスビジネスだが、それだけでは十分ではない。IT市場は今やパブリッククラウドとオンプレミスに2分化され、さらに、それらを連携させるハイブリッド化へ向かっている。同社が目指すのは、オンプレ分野のSDDC(Software Defined Data Center)化だ。そのための橋頭保がSDNやSDSである。カンファレンスの冒頭、CEOのPat Gelsinger氏はSDDC推進に向け、①VMware NSXによるDistributed Network Encryptionがプレビューになったこと、②多様なハイブリッドクラウド環境を管理するVMware vRealize Suite 7と、③重複排除と圧縮機能を追加したSDSのVMware Virtual SAN 6.2をリリースしたことを報告。これらのプロダクトによって、既存顧客の追加ライセンスだけでなく、新規ユーザー開拓も期待できる。実際のところNSXはユーザ数が1,400を超え、本番も350システム、その伸びは1Q前年比で100%となった。Virtual SANは前年同期比200%とこちらも好調である。これらの流れがしっかりしたものになれば、SDDCビジネスの本流が見えてくる。
1Q決算にはもうひとつおまけがあった。$1.2B(約1,300億円強)の株式バイバックだ。一般に自社株が割安の場合、株主還元として、自社株買いが行われる。これによって、市場の株式総数が減少し、結果、1株当たりの資産価値や自己資本利益率ROE(Return on Equity)が向上する。決算内容と相まって、市場は好感して前述のように株価は上昇した。
◆ Q2へ向けて!
今回のカンファレンスコールでは2Q目標の見通しと年度目標が再確認された。
1Qでは、総売り上げ(Total Revenue)に占めるライセンスの売り上げ(License Revenue)比率は約36%(572÷1589)だったが、2Q目標は下表の通り総売り上げが$1,660~$1,710となり、ライセンス比率は37.5%~29.8%へと上昇する。前年同期比の伸びは4~7%、営業利益率は29.8%が目標だ。また、2016年度目標は総売り上げ$6,785(約7,460億円)~$6,935M(約7,630億円)、ライセンス売り上げは$2,660M(約2,930億円)~$2,760M(約3,040億円)を見込み、結果ライセンス比率は39.2%~39.8%へ上昇する。こう見ると、同社の2016年度戦略は、サービス売り上げだけに頼らずSDDCに向けた積極的な市場開拓である。
=幹部3人の退社!=
VMwareの1Q決算は今後を占う上で光の部分である。
しかし影もある。3人の幹部の相次ぐ退社だ。
◆ フェロー&SVPのMartin Casado氏
Martin Casado氏の退社がFortuneで報じられたのは2月24日のこと。氏はSDNの元Neciraの共同設立者兼CTOだったが2012年のVMwareによる買収で移籍、その後Network & Security部門のGMとして活動してきた。今回のカンファレンスコールでPat Gelsinger氏はVMware NSXが$600Mビジネスに成長したことを報告した。退社はちょうど良いタイミングだったのかもしれない。同記事によれば、氏はMarc Andreessen氏とBen Horowitz氏が設立したAndreessen HorowitzのGeneral Partnerとして今後活動する。実際のところ、彼とAndreessen氏の関係は深い。Andreessen氏は個人的に彼が共同設立者だったNiciraに当初から投資し、その後、同VCからも資金が入っている。
◆ COOのCarl Eschenbach氏次いで#2のポジションにいたPresident兼COOのCarl Eschenbach氏が3月1日退社することがFortuneの記事になった。氏は2007年のEMC買収以前の2002年にVP Salesとして入社した最古参の幹部である。まだどうなるかも解らなかった同社を現在のような$6B(約6,600億円)の大会社に育ててきた中心人物の一人である。氏がなぜVMwareを去ったのか、発表された「新しい領域への挑戦」だけだとは思い難い。そして彼は4月以降、著名なVCのSequoia Capitalのパートナーになった。
◆ クラウドトップのBill Fathers氏
4月27日、Fortuneに3人目となるBill Fathers氏の退社記事が出た。氏は大手計算センターだったSAVVIS(現CentulyLink)のクラウドを率いていた人物だ。その実績を買われ、VMwareのクラウド始動に伴って2013年に入社、vCloud Airプロジェクトの責任者となった。しかしパブリッククラウド市場の競争は厳しい。先行する大手は、世界市場を相手に大規模データセンターを展開し、コスト引き下げと機能追加競争を繰り返している。これが同社のクラウドが苦戦している理由である。この状況を打開するために、EMCは昨年5月、Virtustreamを買収し、グループの全てのクラウドオペレーションを統合する戦略を立てた。しかしDell側の意向でこの案は流れた。今回のカンファレンスコールでCEOのPat Gelsinger氏はvCloud Airの方向は狭くなった(vCloud Air’s focus was being narrowed)と言及。これについて、Fortuneの記事では、同社広報の話として、今後はディズアスターリカバリーやデータセンター拡張(The VMware spokesman said vCloud Air will now target specific disaster recovery and data center extension jobs)など限定的な対応を考えているという。既報のように今年2月、vCloud AirはIBMと戦略パートナーとなった。より競争の激しい領域はSoftLayerに委ね、これからは既存ユーザーを守る限定的な守備範囲が任務となりそうである。