2016年10月4日火曜日

AutoTech(14)混沌の時代! 
    -Uberの巨額ロス、配車サービスは夢物語かー

オートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車-)の開発競争はケオス(混沌)の中にある。鳴物入りでシェアエコノミーを唱えて、配車サービスの世界を切り開いてきたUber同社がこれまでに集めた資金総額は、14.11B(約1.5兆億円)に達した。その評価額は$68B(約7.5兆円)となり、今やGMやFordのマーケットキャップを抜き去った。そして8月中旬、独自オートノマスビークル開発に向け、評価額のたった1%にあたる$680M(約680億円)でOttoを買収した。まさに夢物語のようだ。しかし、どの企業にも光と影がある。Uberの影、それは巨額のロスを垂れ流していることである。 

=Uberの世界戦略は成功するか!=
 Uberはパブリックな企業ではないが、下図のような投資家の多さと期待度から、各期毎に投資家向けカンファレンスコールを行っている。8月25日のカンファレンスでCFOのGautam Gupta氏は、2Q決算が税引き及び減価償却前で$750M(約750億円)超のロスであることを公表した。前期1Qが$520M(約520億円)のマイナスであったので上期合計は$1.27B(約1,270億円)となった。途方もない金額だ。氏はその理由として、大部分のロスは世界中のドライバーを対象とした助成金だと説明。しかし今年初め、Uberは投資家に今年こそは黒字転換すると約束した。事実、Booking(売上)は1Qが$3.5B(約3,500億円)、そして2Qは$5B(約5,000億円)と伸び、Net Revenue(純益)も1Qは$960M(約960億円)から2Qでは18%伸びて$1.1B(約1,100億円)となった。売り上げを伸ばし業績をあげながら何故、巨額の赤字を垂れ流すのか。問題は世界規模の拡張政策にある。米国内、さらに都市部に集中すれば確実に黒字になる。しかし、これだけの巨費を集めた以上、それだけでは許されない。世界市場の寡占化が求められている。そのためにはドライバーの囲い込み資金が要る。この助成金の無理が、毎期、赤字を膨らませているのだ。

=Didiへの売却は中国市場での合併か撤退か!= 
Uberの頭痛のタネは中国市場である。中国市場にP2Pのライドシェアリングを持ち込んだのは同社だ。これまで中国市場で争ってきたDidi Chuxingとは、Uberの後に台頭してきたDidi KuaidiとDidi Dacheが合併した企業である。彼らのバックには巨大インターネット企業のAlibabaTencentがいる。こうして熾烈な戦いとなった中国市場は、ドライバーの囲い込みに巨額の資金がつぎ込まれる金食い虫となった。結果は、既にWSJなどで報じられているようにUberの撤退だ。これについてGupta氏は、これは撤退ではなく、Uber ChinaとDidi Chuxingの合併であると説明した。つまりUber ChinaはオペレーションをDidi Chuxingに譲渡する。そして中国政府が11月1日から配車サービスを合法化するのに合わせて、合弁会社となる。両社の市場評価額はUber Chinaが$7B、Didi Chuxingは$28Bとみられ、総額は$35B(3兆5000億円)。この通りだとすれば、Uberは全体の20%を占める株主となる。しかし中国市場が痛み分けで済んだとしても、上図のように世界市場には、米国内に2番手のLyftインドにはOla Cabシンガポールをベースとした東南アジアにはGrab Taxiがいる。Lyftの裏には$500M(約500億円)を投資したGMがいるし、今回Uber Chinaを買収したDidi Chuxingは、巨大資金をバックにOlaやGrab、そしてLyftにも投資をしている。さらに昨年末には、Uber対抗のため、Didi、Grab、Lyft、Olaの4社はAllianceを組んだ。まさにケオスの世界である。 

=ITバブル期の苦い記憶!=
 2000年に弾けたITバブルには苦い思い出がある。オンライン食品スーパーのWebvanだ。同社はバブルの絶頂期の1996年末に設立。大手VCから$396M(約396億円)という当時としては巨額投資を受け、物流倉庫や配送車、ITシステムなどのインフラを整備、サービスが始まったのは1999年6月だった。ベイエリアから始まった同社サービスのウリは注文から30分以内の配送だ。同年9月にはCEOにAndersen Consulting(現Accenture)からGeorge Shaheen氏を迎え入れ、サービスインから半年にも満たない11月には、NASDAQに株式を公開して$375M(約375億円)を集め、その評価額は $4.8B(約4,800億円)となった。まさに時代の寵児である。しかし同社の裏側で起きていた事実は、IPO時までの売り上げ累計が$395K(約4,000万円)、損失累計は驚くことに何と$50M(約50億円)であった。その2年後、2001年に倒産。全ては苦い思い出となった。失敗の原因は色々取り沙汰されているが、アリームーバーを追うあまりの過剰な設備投資が主要因であったことは間違いない。ことほど左様に、インターネットビジネスは難しい。実態の見えない世界だからこそ、誰よりも早く、大きなパイを取らなければいけない。そうしなければユーザーは直ぐに他へ流れてしまう。しかし言うは易く、行うは難しだ。もうひとつ、Amazon.comの事例をみよう。Amazon.comのβサイトが始まったのは1995年、Amazom.comは、自他ともに認めるこの世界の先駆者だが、未だ株主配当も出来ずにいる。同社の売り上げは設立以来、概ね堅調だ。ここ数年では、2011年は$48B、2012年は$61Bとなり、2013年は74.5B、2014年が$89B、そして2015年は$107B。しかしNet Income(純利益)となると悲惨である。2011年は$631M、2012年は▲$39Mの赤字、翌2013年は$274M、2014年はまた赤字の▲$241M、そして昨年は$596Mとなって、殆ど儲かっていない。

以上、失敗したWebvanの事例とAmazon.comを見てきた。
しかしAmazon.comがビジネスの成功組だとは言い難い。Uberはどちらと重なって見えるのか。はたまた新たな境地を切り開くのか。 確かなことは、Uberの昨年度のロスは$2B(約2,000億円)、今年はこれを超える公算が大きい。さらに、UberにはDidi Chuxingだけでなく、世界市場で既に幾つかの大手競合がいる。ドライバーも利用者も、良い条件が提示されればすぐに流れてしまう。こう考えると、Uberがこのケオスから抜け出すのは容易なことではない。