2016年10月9日日曜日

AutoTech(15) 混沌の時代! 
        -Googleの悩み、そして人材流出ー

前回はUberを巡るケオスとは何かを報告した。
今回はGoogle Carを苦しめているケオスについて考えてみよう。Googleの狙いは勿論、米運輸省傘下のNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)が定義したLevel-4の車を2020年に世に送り出すことにある。Level-4とは完全なる自立走行車だ。しかし、この目的の完遂のためには、まず技術的なクリアが必須だ。現在、市場に出荷されているオートノマスビークル(Autonomous Vehicle-自動運転車)は、Level-2の段階である。技術的に見て、それらには本格的なAIは適用されていない。つまり、「この場合はこうする」「こうなったら、こうしよう」と言ったルールベースの処理方式をファームウェアやプログラムに組み込んだものだ。基本的には、これまでのコンピュータ相手のプログラミングとさして変らない。変わるのはインプットが各種のセンサーなどからで、出力はインターフェースボックスを介して、車のステアリングやアクセル、ブレーキに戻されることである。

=Google CarのAIとは!=
Google Car(下図)を見てみよう。
Google Carには屋根の上にVelodyne製のレーザーによって対象物までの距離と反射率を回転しながら64chで高速測定する高性能のLiDAR、車両前方には電波で対象物までの距離と相対速度を測定するミリ波レーダー、ホイールの回転数から走行距離を算出するDMI(Distance Measuring Instrument)、GPS、そして内部には慣性航法のための6軸加速度センサーIMU(Internal Measurement Unit)などが装備されている。Google CarのAIでは、これら各種のセンサー情報によって、車の走行状況を把握し、次なる行動を計画、そして実行する。これを制御サイクルという。しかし、センサー情報による状況把握と現実には微妙なズレがあり、これを補正するために、Google Carでは、この制御サイクルを高速で実行している。他方、行動計画の立案では、これまでの膨大な走行データからガイダンスとなるアルゴリズムを受け取り、それによって計画を策定する。日々集められる膨大な走行データから、Deep Leaningによって新しいアルゴリズムが作られると、直ちに最新のガイダンスとして利用する仕組みである。
 
=法規制は回避できても、保険は難しい!=
Googleの悩みはLevel-4が技術的にクリアー出来ても、そこで終わりではない。
まだ、法規制がある。1949年にジュネーブと1968年のウィーンで制定された道路交通に関する条約(いわゆるジュネーブ条約とウィーン条約)だ。これらには走行車両には運転車がいることが明記されている。これに対して、Googleは米運輸省傘下のNational Highway Transportation Safety AdministrationNHTSA)に昨年11月12日、Google Carのような完全なSelf-Driving Vehicle(SDV-自律走行車両)で、Self-Driving System(SDS)によって走行する場合は、どのように判断されるのか、回答を求めるレターを出していた。今年2月4日、そのNHTSAから書面で回答があった。それによると、追加情報と証拠の提出を条件に、SDSをドライバーとみなせる可能性があるとの見解を示された。これは大きな前進である。そして、今週、9月22日、最初のガイドラインFederal Automated Vehicles Policy米運輸省からリリースされた。それによると、ドライバーが全く運転に関わらない完全な自動運転車を容認する一方、各自動車会社はLevel-4まで全てのオートノマスビークルのテストデータを政府機関と共有すること、そして15項目の安全基準を満たすことを求めている。

しかし、法規制がクリアー出来たとしても、次に、関連する自動車保険がある。
ドライバーが人ではなく、AIのSDSとなった場合は、その保険料率はどうなるのか。これまでの経験では、まったくの実績のない場合、当初は法外な料率となり、実績を経るに従って低減して、妥当なところに落ち着いてきた。しかし、オートノマスビークルの場合、開発各社によって、その出来具合、つまり性能が異なる。そして、大量導入まで、そう長い間は待つことが出来ない。こう整理すると、このことが、オートノマスビークルの最初の市場を配車サービスに向かわせている要因だと気づかされる。この市場なら、当初、保険が高くても段階的に導入が可能であるし、自動車会社にとっても、製品評価と迅速なフィードバックが行える。
 
=優秀な人材は10億円/人、そして人材流出!=
Googleの目標は2020年にLevel-4を出すことである。
法規制はクリアーされる見通しとなったが、これをNHTSAのカウンターとして主導してきたGoogle Self-Driving Car ProjectのCTO Chris Urmson氏が8月初め去っることになった。突然の出来事である。彼はプロジェクトをリードしてきたキーマンだ。同時にプロジェクトメンバーのJiajun Zhu氏とDave Ferguson氏も去った。Zhu氏はプロジェクトのオリジナルメンバー兼プリンシパルエンジニアでもある。Fargason氏はAIエキスパートだ。2人は退社すると直ちにSelf-Driving CarのステルスモードNuro.aiを立ち上げた。Urmson氏の去就は報告されていない。彼らが去ったのは何故だろう。想像できる理由のひとつは、昨秋、GoogleがスカウトしてGoogle Carビジネス部門長となった元Hyundai Motor America CEOのJohn Krafcik氏に対する不満だ。氏はGoogle CarのCEOとなったが、未だにビジネスパートナーを見つけられず、最大の任務であるビジネスモデルの構築が出来ていない。Googleはこれまで幾つもの自動車会社と接触してきた。しかし、保守的な彼らはGoogleのパートナーとはならず、自力開発の道を選んだ。現在、可能性があるのは、Krafcik氏の元の親会社、韓国のHyundaiとの交渉だ。氏としては何としても纏めたい状況である。もうひとつの理由は、今がエンジニアの売り時だからである。2007年から初代リーダーとしてGoogle Carプロジェクトを率いていたSebastian Thrun氏は言う。この10年で、多くのSelf-Driving Carスタートアップが登場したように、自動車業界は能力のある人材に飢えている。Uberはたった半年しかたっていない社員数70名のOttoを約$700Mで買収し、GMもCruise Automationを$1Bで買収した。これらは人材買収Talent Acquisitionであって、1人当たり約$10Mとなる。だから、彼らにとっては、今が売り時なのだ。現にOttoの創業者4人も元Googleの社員だ。2020年までGoogleに留まってGoogle Carの完成を見届けるべきか。しかし、現在、確固たるビジネスパートナーもビジネスモデルもない。それなら、今、飛び出して新たな人生設計を夢見るかである。社員のこころは揺れている。