アプリケーショントラフィック管理のF5 Networksから大手企業を対象とし たCloud Computing Surveyが出た。対象となったのは全世界で2,500人以上の従業員を持つ250社の民間企業だ。平均はなんと75,000人というから超大企業対象 調査である。回答者は、実務的なIT部門のManagerが37%、VPが24%、Directorが23%、そしてSVPは16%、CIOは含まれてい ない。以下は調査報告書からの主なポイント(Key Finding)である。
◆ ONE - Cloud Computingの定義はバラバラ、そこで統一見解を作成
まず、いつもながらのことだが回答者のCloud Computerに関する定義はまちまちだ。この調査では回答者から下図の下段に見られる幾つか代表的な定義を出してもらい、それについて全員が5段階の 評価をつけた。5段階とは、①完全に一致している(Perfect, This definition nails it) 、②大体あっているが一部欠落や間違いがある(Almost there, but there are a few parts missing or incorrect)、③約半分は正しい(This is about half right)、④一部は同感だが殆どは違う(I agree with a few things, but mostly not)、⑤この定義には同感できない(There is nothing I agree with in this definition)だ。調査の結果、①完全に一致(Perfect)と②大体あっている(Almost there)の合計が68%以上を獲得し、ほぼこれに近いと思われた定義は、以下の2つである。
• クラウドコンピューティングは、自営データセンター外の仮想ITリソースをオンデマンドで利用し、他との共用、簡単な使用法、サブスクリプション払い、そしてWeb越にアクセスするもの。(Cloud computing is on-demand access to virtualized IT resources that are housed outside of your own data center, shared by others, simple to use, paid for via subscription and accessed over the Web.)
• クラウドコンピューティングは、動的な拡張性を持ち、往々にして仮想化リソースを用いるコンピューティングスタイルで、インターネット越にサービスとして提供される。利用者はクラウドの知識や経験、インフラの制御などは必要としない。(Cloud computing is a style of computing in which dynamically scalable and often virtualized resources are provided as a service over the Internet. Users need not have knowledge of, expertise in, or control over the technology infrastructure in the “cloud.”)
調査では、この結果に終わらず、新たにIT ManagerやNetwork Architect、そしてCloud Service Providerを含めたグループを結成、回答者の意見を踏まえて誰でもが解るCloud Computingの定義を議論、以下のような統一見解を作成した。
-クラウドコンピューティングとは-
クラウドコンピューティ ングは、動的な拡張性を持ち、往々にして仮想化されたリソースを用いるコンピューティングの形式で、インターネット越にサービスとして提供される。利用者 はクラウドの知識や経験、インフラの制御などは必要としない。さらにまた、クラウドコンピューティングは可用性や利便性を持ち、オンデマンドネットワーク アクセスで共用される構成可能なコンピューティングリソース(例えばネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスなど)を利用するモ デルで、最小限の管理努力とサービスプロバイダーとのやり取りで迅速な適用やリリースが出来る。
(Cloud computing is a style of computing in which dynamically scalable and often virtualized resources are provided as a service. Users need not have knowledge of, expertise in, or control over the technology infrastructure in the "cloud" that supports them. Furthermore, cloud computing employs a model for enabling available, convenient and on-demand network access to a shared pool of configurable computing resources (e.g., networks, servers, storage, applications, services) that can be rapidly provisioned and released with minimal management effort or service provider interaction.)
余談だが、後半部分は既報<NISTクラウド定義とGSAの要求仕様 9/29>NISTの定義を付け加えたもののようである。
◆ TWO - しかしCloud Computingは浸透
Cloud Computing定義の混乱は、ともかく、大企業においてCloud Computingは着実に浸透している。調査では、何と99%の回答者が導入の議論中か、適用、運用中などのステージにあることが解った。以下2つの図 はPublic CloudとPrivate Cloudについての段階調査だが、Public Cloudでは82%が試行(Trials)か適用中(Implementing)、ないし本番中(Using)と答え、Private Cloudでは同様の段階にあるものが83%となった。しかもPublic Cloudは51%が何がしかのアプリケーションで使用中であり、Private Cloudでも45%が利用しているという回答には目を見張る。そして66%のIT ManagerはCloud Computing向けの特別予算(Dedicated Budget)を持ち、71%は今後2年間、この予算は伸びると回答している。
◆ TREE SaaSより、PaaSやIaaSが重要
一 般にCloud ComputingとSaaS(Software-as-a-Service)は同等視の傾向があるが、IT Managerの回答では、SaaSはCloud Computingの重要な要素ではあるが、最も重要だとは見なしていない。回答者の4分の3(75%)は、Cloud ComputingにはPaaS(Platform-as-a-Service)が通常、または常に含まれるとし、その上、3分の2 (66%)はIaaS(Infrastructure-as-a-Service)もCloud Computingに通常、または常に含まれるとした。対して、5分の3(60%)がSaaSは通常、または常にCloud Computing含まれると回答した。つまり、IT ManagerにとってのCloud Computingとは、PaaS→IaaS→SaaSの順のようである。
◆ FOUR 気になるコアテクノロジーと狙いは何か
関 連予算の増加に伴いIT ManagerはCloud Computingのインフラ構築技術の調査に余念が無い。5段階評価に従い、より詳細に見ると、回答者が最重要だと答えたのはアクセスコントロール 90%、次がネットワークセキュリティー89%、サーバーとストレージの仮想化88%の順となった。そしてCloud Computingに向かう狙い(下図)としては、①経済性(Efficiency)がPublic Cloudで77%(Privateは45%)、②IT資本コスト削減(Reduce Capital Costs)がPublicで68%(Privateは63%)、③運用費用の削減(Reduce Operating Expenses)がPublicで51%(Privateは45%)、④迅速性がPublicで58%(Privateは51%)などなった。
◆ Cloud Computing予算を分析する
増加傾向にあるCloud Computingの予算とは、ITインフラの整備は想像がつくにしても、その他は実際、誰が予算を持って、どういう分野に使うのだろうか。回答者による と、64%の予算はやはりITインフラの整備であった。次にアプリケーション開発(Application Development)とネットワーク(Network Architect)が各々13%、残りはサーバーグループ(Server Group)と業務部門(Business Owner)が5%づつとなった。また、PublicとPrivateを分けた数字では、Public Cloudに関する予算のトップ3は、①ITインフラが45%、②アプリケーション開発が41%、③事業別部門LOB(line of Business)が41%となり、Privateでは、①ITが45%、②LOBが36%、③アプリケーションが24%となった。
この調査を見る限り、Cloud Computingは大企業でも大きく取りあげられていることに驚かされる。これまでCloud Computing、特にPublicはデベロッパーと共に進展し、主に中小企業への浸透が進み、大企業ではこれからとの印象があった。だが、状況は我々 の想像を超えていたようである。こうなると、エンタープライズ市場を制するのは誰かがポイントだ。大手ITベンダーなのか、Hosting Businessに長けたデータセンターなのか、はたまた、AmazonなどCloud Computingを引っ張っていた新規参入組なのか、本格的な戦いが始まっている。