2010年3月23日火曜日

Googleのクラウドストレージ戦略を読む-3
                      ・・・Googleらしさとは何か

ここまでGoolgeのクラウドストレージ戦略を読むと題して、①その核となるGFSの改良、②次期データセンター構想のWSC(Warehouse-Scale Computer)について説明してきた。今回はその上で、同社のクラウドストレージ戦略がどうなるのか読み明かしてみたい。

-GDriveがやってきた-
今年1月12日、同社はGoogle Docsにクラウドストレージ機能を追加すると発表した。発表によれば、どのようなファイルもクラウド上のDocsにアップロード/ダウンロードが出来る。ただファイルの最大サイズは250MBまで。利用は1GBまでが無料、これを超えた場合は“Googleのクラウドストレージ戦略を読む-1”で述べたように、20GBの追加利用料がたった$5/年、400GBなら$100/年、16TBで$4096/年となる。つまり1GBあたりの1年間の利用料はわずか25¢だ。一部のサイトではGDriveの登場-GDrive is Coming-だと色めき立った。
もっともこれには予兆があった。2008年6月、GoogleがDocsにPDFをサポートするとした時点で、いずれどのようなファイル形式もサポートされると思われていたからだ。それが1年半たって現実になった。これまで .doc、.txt、.ppt、.pdfなどのオフィス関連に限定されていたDocsのファイル形式は一気に全てが扱えるようになった。勿論、アップロードファイルを共有ファイルすればコラボレーションが出来る。

-3rd Partyとの連携、その意味するもの・・・SaaS-
もうひとつ重要な発表があった。
Googleはクラウドストレージの発表に伴って、外部企業(3rd Party)との連携戦略に出た。これはSaaS領域の強化戦略と考えることが出来る。今回の発表では、PC上とクラウドの同期化を行うMomeo、PCのバックアップなどを行うSyncplicity、プロジェクト管理をベースとしたドキュメント共有Manymoonの3社だ。つまり、Googleとしては任意のファイルを扱えるクラウドストレージを低価格で提供し、後は3rd Partyに任せようというわけだ。本ブログで2月の始めから4回シリーズ-Cloud Storage (1)Cloud Storage (2)Cloud Storage (3)Cloud Storage (4)-で見てきたようにクラウドストレージの世界は百花繚乱である。このような状況ではいくらGoogleでも参入は容易ではない。

そこで考え抜いたあげくの作戦はAndroidと同じ方法だった。
市場は熟成し、多くのベンダーがいる。彼らのノウハウを生かしながらGoogleのクラウドストレージを使って貰い、共存共栄を図りたい。まさに携帯電話市場と同じだ。クラウドストレージプロバイダーは今や価格競争に晒されている。発表した低価格クラウドとの連動だけでも魅力的なはずだ。そして、AndroidがLinuxベースのオープンソースであるように、GoogleにはDocsとGmail、Google TalkGoogle CalendarGoogle SiteなどをパッケージにしたGoogle Appsがある。これらには豊富なGoogle Code APIが用意されている。Googleの基本的なオープン志向と低価格ストレージ、そして3rd Party連携が三位一体となれば大きな効果が出せる。現に Amazon S3をバックエンドエンジンに使ったプロバイダーは沢山ある。もし、彼らがS3からこの廉価なストレージに乗り換えるようなことになれば弾みがつく。そのためには、阻害要因の排除や推進策が欠かせない。

-AppEngineはどうなるか・・・PaaS-
Googleは検索エンジンの基盤となる大規模分散システム構築を自力で行ってきた。
そしてGFSの改良も済み、Datacenter as a Computerによる次世代データセンター構築も始まった。しかし、今日のクラウドコンピューティングの視点から見ると構造的な問題もある。レポートで述べられているWSC(Warehouse Scale Computer)のソフトウェア構造は、Platform/Cluster/Applicationの3層からなる。Googleはこの2層目のCluster-levelを“Data Center OS”とでも言うべきものだという。しかしユーザーからは通常のLinuxやWindowsは見ることが出来ない。
つまり、OSの上に自由にミドルウェアやアプリケーションを積み上げるこれまでの’ソフトウェアスタック構築は難しい。さらにWSCでは1層目のPlatform-levelにカーネルなどがあり、通常の仮想化技術の適用にも難点がある。簡単にいうと、Googleは説明しないがIaaSを提供できない理由はここにあるのだろう。以上のことからGoogleが当面、下位のIaaSを避けながら、PaaSのGoogle AppEngineと上位のSaaS(Docs/Appsなど)に傾注しているのは頷ける。さて、話をもう少し先に進めるとどうなるだろう。Googleの本来的な特徴は大規模分散処理であるし、WSCでも、そのことははっきりしている。PaaS強化で考えられることは、まずストレージ関連だ。現在Googleストレージには2種類ある。GFSベースとそうでないものだ。GFSは基本的にGoogle検索エンジンなどの製品に限定されているが、唯一、ユーザーに開放されているのがGoogle AppEngineだ。AppEngineのDatastoreはGFSベースで3ヶ所に分散保管され、バックアップの心配はない。ただ利用料金は1GB/月で15¢だから、20GBの年間利用料を単純計算すると$36(=20 x 12 x o.15)、Docsストレージと比べ約7倍、GFSの3ヶ所分散を加味しても2倍である。つまり、いずれかの時点でAppEngineのストレージコストが大きく下がる可能性が十分ある。

以上Googleのクラウドストレージ戦略について探ってきた。
Amazon Web Serviceにはかなり遅れをとったが、やっと追撃体制が整ってきた。
低価格のクラウドストレージをテコに3rd Partyを呼び込みたい。その上でMapReduceやDatastoreなどの分散対応機能が拡充できれば新たな展開が生まれる。いずれ、クライアントデバイスはブラウザだけあれば良い時代になるだろう。ブラウザから進化したChrome OSがSaaSと連携したり、仮想マシンより大きなクラスターの実行など、既成概念に捕らわれないGoogleらしいクラウドコンピューティングを大いに期待したい。