2015年10月16日金曜日

投資分析からみたDellによるEMCの買収!

今週初めのDellによるEMCの買収は、総額$67B(約8兆400億円)という金額と共に仰天の出来事だった。勿論、IT業界最大の買収劇である。周知のようにPCビジネスは飽くなきコスト削減の中で統廃合を繰り返し、生き残りを賭けて、HPは昨年2社分割(Hewlett-Packard EnterpriseとHP Inc.)を決めた。IBMもPCだけでなく、昨年初め、x86ベースのサーバーラインSystem xをLenovoに売却。今回の事件は、こうした環境に押され気味のDellが打った大ばくちだという報道もある。興味本位ではなく、実際のところ、この買収を投資家達はどう見たのだろうか。CB Insightsの分析を見てみよう。同社は2010年、American Expressで実務経験したAnand Sanwa氏とJonathan Sherry氏が興し、スタートアップへの投資や企業のM&Aデータを駆使して、その分析情報を顧客に提供している。

EMC/VMwareによるこれまでの大型買収!=
ストレージの巨人と言われたEMCとその最大の子会社、かつ仮想化時代を作り上げたVMwareの企業買収(M&A)は、2010年以降だけでも$100M(120億円)超の買収案件が7つある。中でも、①企業向けモバイル端末のセキュリティーと管理サービスのAirWatch(日本ではVMware経由でソフトバンクテレコムが提携)、②VMwareのSDN(Software Defined Network)として組み込まれたNicira Networks、③ホステッドプライベートクラウドのVirtustream(日本ではCTCと提携)の3社は、1,000億円を超える買収として記憶に新しい。   

=Dell/EMCの投資は峠を越え、そして収斂!=
Dellの場合もEMCと同様、スタートアップや上場企業などをたくさん傘下に収めてきた。CB Insigtsの下図の2つは、上段が3社によるM&A件数推移、下段は同投資件数推移である。ここで解るようにM&Aのピークは2012年だ。この年、DellはシンクライアントのWyse、セキュリティーのSonicWALL、総合的なIT管理ソフトのQuest Softwareなど8社を買収した。EMCも同年、フラッシュストレージのXtremIOや企業向けファイル共有サービスのSyncplicity、セキュリティーのSilver Trail Systemsなど7社を買収。両社の買収投資は2010年から2012年の3年間、ほぼ同様の傾向を示したが、Dellはその後の2013年から年1件と低調となった。一方、EMCは翌2013年は4件とやや減ったたが、昨年はクラウド企業を買いあさった。OpenStackベースの企業向けクラウドCloudscalingクラウドベースのNASベンダーMaginaticsGoogle AppsSalesforceのバックアップサービスプロバイダーのSpanningなど6社である。この間、VMwareの買収件数は、一貫して低減傾向だ。 そして今年、これまでのところ、3社共、M&Aは1社という完全に低調な状況になった。
3社によるM&A件数推移
この間の投資案件はどうだったのだろうか。
下図のようにEMCの投資は2010年来ゆっくりだが安定して伸びてきた。直近の投資は今年9月末のSaaS型セキュリティーのZscalerだ。これが今年の2件目である。一方のDellは2014年が投資案件が6件と一番多く、セキュリティー関連のLastlineCylanceInvincea、ストレージ関連のSkyera(Western Digitalが昨年末買収)、Formation Data SystemsNexentaである。今年はDellとVMwareが3件づつ、EMCは2件なので、ここでも収斂傾向が見える。
Zscaler

Read more at CB Insights: https://www.cbinsights.com/company/zscaler

3社による投資件数推移

=DellのEMC買収の成否はクラウドが決める!=
こうして両社の企業買収と投資傾向を見てくると、それらは収斂して行き詰まってきたことが解る。ご記憶の方も多いだろうが、2013年はDellにとって受難の年だった。有名な投資家のCarl Icahn氏が仕掛けた買収をMichael Dell氏がMBOで受けて立ち、以来、Dellは上場を停止した。以下の3つの図はWikinvestからの引用で、Dellの成長は2011年を境に大きく落ち込んでいる。EMCもDellほどではないが、やはり2012年からの成長鈍化は著しい。このような状況が、2012-2013年にかけて両社のM&Aや投資が活発になった要因だ。では何故、両社がこのような厳しい状況に置かれたのか。それは間違いなくクラウドコンピューティングの台頭である。分けてもPublic Cloudだ。AmazonやGoogleなどは、ストレージも含めた自社設計のコンピュータでクラウドを運用する。時代が変わってきた。これまでサーバーやストレージなどは、DellやHP、IBM、さらにEMCなどがユーザ企業に売り、ユーザがデータセンタでシステム構築をして使用してきた。しかし、クラウド時代の到来で、彼らの顧客は段階的に自社データセンターを縮小し、Public Cloud利用へと進む。この難題に新たな回答を求めて立ち向かったのが2012年から2013年にかけての買収や投資だった。これらのオペレーションを通して、EMCはPivotalをPaaSとして分離させたり、OpenStackスタートアップのCloudscalingなども手に入れた。最大の子会社VMwareもvCloud Airをスタートさせ、両社は共同で新たなクラウド戦略を模索してきた。Delに至っては、シンクライアントターミナルのWyse買収はともかく、不得意なソフトウェア分野を補てんすべく各種の買収を繰り返してきた。しかし、彼らの戦略は行き詰まった。今回の買収の成否は、今後、クラウドの成長がどこまで進むのかにかかっている。IT市場は彼らの力が及びにくいクラウドとその他の分野に分かれるだろう。その比率が新生Dell/EMC組の適正規模の目安となろう。現時点で想定される戦略とは何か。まず、新生Dell/EMCグループをクラウドとハードウェアの2つの部門に分ける。勿論、クラウドの核は、買収評価額$67Bの半分を占めると言われるVMwareだ。次に、EMCの専用型ストレージとDellの融合である。これはDell汎用サーバー機の技術を使ったスケールアウト型のSDS(Software Defined Storage)への暫時移行である。これは一時期、売り上げ減を伴うが、中長期的に生き延びる重要な施策となろう。いずれにしても、全てはクラウドが今後どのように進展するかにかかっている。その状況に新生Dell/EMCグループが柔軟に対応できるかどうか見届けたい。