2011年5月9日月曜日

次世代クラウドコンピューティング(1)  
                 -ハード機能連携型仮想マシン-

クラウドは単なる仮想マシンでは終わらない。
この仮想マシンを機能強化することが出来れば、その先に未来のコンピューティングがある。今回からシリーズで、それを予感させる幾つかの動きを追ってみよう。
第1回は「GPUサービス」について検証しよう。

◆ インターネット+クラウド+新たな利用=フューチャーシステム
このブログでは、クラウドは第2のインターネットだと度々述べてきた。
インターネットが公共性という視点で成功してきたようにクラウドもその延長線上にある。このことが理解されれば、成長に疑いはない。そして、その先に将来の姿が見えてくる。代表的なクラウド用語にIaaS/PaaS/SaaSの領域区分がある。これを便宜上、将来のコンピューティングにあてはめると、現在のインターネットはコミュニケーションのインフラ(IaaS)、クラウドはコンピューティングのためのプラットフォーム(PaaS)となり、そしてSaaSにあたる部分こそが重要で、ここが次世代クラウドを占う鍵となる。


◆ GPUサービスとは何か(NVIDIA Tesla)
北米では既にGPU(Graphic processing Unit)サービスが始まった。
これが将来のSaaS部分の構成要素を予兆させる動きのひとつだ。高性能GPUベンダーには2社(NVIDA、AMD/ATI)があるが、これらを用いたプロバイダーの提供アプローチは異なる。まずNVIDIAのGPUを使ったサービスでは、通常の仮想マシンでは処理出来ない高性能グラフィック処理をクラウドに任せようとする傾向にある
このサービスを最初に手がけたのは、サーバーやストレージのクラスターリングに強みを持つPenguin Computerで、そのサービスはPoD(Penguin on Demand)という。PoDはHPCをリモートからオンデマンドでユーザーに提供するもので、その目玉サービスがGPUサービスだ。PoDでは、ユー ザーはHPCにスケジューラーを介してジョブを投入する。GPUサービスは、このHPCに付帯する専用サーバーであり、実際のところ、4 Core Xeonを2つとNVIDIA Tesla C1060を搭載したLinux機である。ユーザープログラムからはOpenCLCUDAなどでアクセスし、このグラフィク処理専用システムを時間借りする。このような提供タイプを“Hosted Reality Server”と言い、ユーザーはGPUを物理サーバーとして認識することが出来る。PoD同様、HPCとGPUサーバーを組み合わせて提供するカナダのPeer 1で は、このクラウドサービスをHPCC(High Performance Cloud Computing)として、金融機関や自動車設計、科学計算などに提供している。また、テキサス州ヒューストンのNimbixからもGPUサービスを全面に押し出したNACC (Nimbix Accelerated Cloud Computing)が始まった。

HPC on Amazon EC2
Amazonからも昨年7月、 EC2上でのHPCサービスHPC on EC2がスタートした。
この新方式では、他のインスタンスより多くのCPUで構成されるHPC向けインスタンス“Cluster Compute Instances for Amazon EC2”が定義された。正確には、1つのインスタンスでEC2 Compute Unitが33.5台、RAMは23GB、Instance Storageは1690GB、そして10GBのI/Oを持ち、最大8つまで拡張が可能だ。これを使えば、小型から中規模程度のHPCとして利用すること が出来る。このCluster Instanceのひとつに“Cluster GPU Instance”がある。これがGPUサービスだ。このインスタンスは通常のCluster Instanceに2つのNVIDIA Tesla M2050が搭載されたものだと思えばいい。このような専用サーバーではなく、あくまでもインスタンスとして提供するGPUサービスのタイプを“Hosted GPU”という。

◆ AMDとOTOYの目指すGaaS(Game as a Service)
次にAMDの対応を見る前に、 GPU市場を一瞥しよう。
AMDは2006年7月、カナダのATIを買収してこの市場に参入した。数字だけをみれば、これまでIntelがGPU マーケットの約半分、残りをNVIDAが優勢のうちにAMDとシェアしてきた。Intel製はローエンドのPC用、NVIDIAはPCのハイエンド、 AMDはさらに上の上位PCからワークステーションをカバーするという構図だ。しかし、昨年夏あたりから状況が変わり始めた。AMDが数字的にNVIDIAに対してややリードし始め、今年に入ってもその状況が続いている。ポイントは3Dゲームなどの普及で、より高性能なGPUが優位になったことだ。中でも、今年3月始めに出たデュアルGPUのAMD Radeon HD 6990がけん引役となっている。

さて、話を戻そう。
OTOYという会社が2008年、AMDからスピンアウトした。
OTOYを率いるのはJules Urbach氏だ。氏はAMD時代にサーバーサイド・グラフィックスの開発を担当していた。この技術を使えば、PCに高価なGPUを搭載することなく、サーバー側で高速レンダリング処理を行い、それをクライアントに転送して、ブラウザだけで表示することができる。つまり、HTMLだけで、精密なレンダリングが出来、しかも動画として見せることも可能となる。これが出来ればHPCがクラウドにあって、超精密レンダリングを担当し、一般のPCだけでなく、モ バイルなどでも3Dゲームが楽しめる時代がくる。まさにGaaS(Game as a Service)の到来だ。

   
もちろん、このサーバー側にはAMD/ATIの高性能GPUが使われており、AMDはこれを“AMD Fusion Render Cloud”としてCES 2009で発表した。現在、OTOYのホームページには、幾つかのサンプルがあるが、これが実用化されるのが待ち遠しい。
ま た、同社では同様の技術範疇のLightStage技術も完成させている。これはモーションキャプチャーとして、人の微細な表情までも再現できるフェイシャルレンダリングで、映画「アバター」や「スパーダーマン」、日本では「ガイキング」などに使われた技術だ。

◆ 無限に広がる可能性-ハード機能連携型の仮想マシン
今回は将来のクラウドを占うひとつの好例として、GPUクラウドを取り上げた。
これまで価格面から、一般のサーバーには高性能GPUは搭載されず、グラフィックス系
アプリケーションの処理は出来なかった。しかし、クラウドによるGPUサービスの登場で徐々に解禁されつつある。ここでポイントとなるのは、クラウドによって物理マシンから開放され、仮想マシンに処理が移り、さらにそれが別な高性能GPUを搭載した仮想マシンとマッピングされることである。この連携型の仮想マシンを使えば、HPCやGPUを必須とする車や列車、飛行機などの訓練シミュレーションが廉価なシステムとして可能となる。類似の事例には、CAD大手Autodeskが始めたプラスティック製品のモルディング加工シミュレーションがある。これは同社のMoldflowをクラウドで稼動させるプロジェクトだ。AutoCADからもiPhoneやiPadでCAD図面にアクセスするAutoCAD WSが始まった。もう、こうなれば、手元のスマートフォンから、クラウド上で連携する最強のマシンを操ることも可能となるであろう。

2011年4月24日日曜日

登場したクラウド向け総合APポータル
             -OKTA、OneLogin、CloudGate- 

最近のクラウド市場中でOktaの動きは見逃せない。
同社が提供するのはオンプレミスはもちろん、ファイヤーウォールの外にあるSaaSやWebアプリケーションのアクセスマネージメントだ。解りやすく言えば、クラウド時代の総合アプリケーションポータルである。

◆  アクセスマネージメントとは
今日、SaaSやWebアプリとして、CRM、ERP、テレビ会議、人材開発、eメールなど多様なアプリケーションが提供されている。企業にとって、自社独自のミッションクリティカル な業務は別にすると、他のアプリケーションはこれら外部のもの利用する時代となった。
しかし利用するユーザーから見ると、多様なアプリケーションを使い分けるには、正確なアプリのURLやユーザーネーム、パスワードの保持・管理をしなければならず、加えて、既存オンプレミスのアプリもあって煩雑このうえない。一方、IT部門から見れば、どのユーザーにどの外部アプリを使わせるべきなのか、またはどのユーザーが使っているのか、システム全体としてのコンプライアンスは大丈夫か、 ROI(Return On Investment)はどうなるのかなど頭の痛くなる課題が山積する。これらへの解答のひとつがアクセス
マネージメントだ。


◆ How to Use It !
Oktaがどのようになっているのか見てみよう。
まず、初期画面からログオンする。Oktaは Active DirectoryベースのSingle Sign On (SSO)となっているので、一度、ログオンすれば、以降、どのアプリケーションも自由に使うことが可能だ。そしてパーソナライズされたポータル画面(左上)が表示される。SaaSでも、Webアプリでも、オンプレミスでも、実行はワンクリックでOKだ。このためには事前のアプリケーション登録やユーザー別の利用選定などが必要となる。アドミニストレータ向けダッシュボー ド(右上)ではアプリケション管理、ユーザー利用状況、セキュリティーポリシーなどが掌握できる。Oktaは構造的(右図)に、ユーザー認証とユーザー管理機能を持ち、ロギング&レポーティングが付帯している。以下は主な特徴である。

1. Controlling User Access
今日、ユーザーニーズの多様化から、何処でも、どのようなデバイスやブラウザーからでも、アプリへのアクセスを保証しなければならない。このための中央側の仕組みがユーザーアクセス制御だ。

2. Password Fatigue
外部のSaaSやWebアプリは基本的に異なるパスワードを要求する。OktaはこれらにSSOで対応し、さらにセキュリティー向上のために、内部的にコードを生成して定期的に変更する。

3. Collaborative Administration
また外部のクラウドアプリは独自の運用ルールを持っており、その適用は煩わしい。このためIT部門とビジネス部門で情報を共有し、共同管理の仕組みが提供されている。

4. On-Premise Directory Integration
SSOによる外部アプリケーションへの統一アクセスだけでなく、オンプレミスのディレクトリーも統合、これによって、エンドユーザーの作業は大幅に軽減される。

5. Managing Compliance and ROI
そして、最終的なROI(Return On Investment)を確かなものにするために、外部アプリ別利用状況を分析し、契約条件へ反映する。さらに外部アプリ別のコンプライアンスを定期的にチェックする。

◆ OneLoginの試み
さて、この分野で活動しているのはOktaだけではない。
OneLoginもActive DirectoryベースのSSOと、ワンクリックのSaaSポータルを提供している。そして今年3月末からはオープンソースのSAML (Security Assertion Markup Language)のツールキット提供が始まった。これは外部プロバイダーの提供するサインオン機能とポータルのSSOをマッピングするこれまでの受身の方法から、OneLoginがよりセキュアなSSO構築のためのツール (SAML)を提供して、プロバイダーがサインオンの手順を改修する能動的なものである。これによって、プロバイダー毎にバラバラなセキュリティーレベルを同じ基準で引き上げようという作戦だ。


 より総合的なホスティングCloudGate
ManagedMethodの提供するCloudGateはより総合的だ。
そして何よりも、大きな違いはHostingサービスである。受託するセンターはロードバランサー付きクラスターで、監査基準はSAS 70Ⅱ対応だ。またセキュリティーでは、HTTPS対応のCloudGate gatewayや侵入検出-ID(Intrusion Detection)、脆弱性テストなどを備えている。これらによって、委託ユーザー企業は、より高度なセキュリティーと処理拡大に伴う拡張性を保持するこ とが出来る。

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米国クラウド市場の動きは早い。
多くの企業ユーザーは、従来のオンプレミス一辺倒から脱し、パブリッククラウドと併用するハイブリッド化が進んでいる。さらに、従来からエンドユーザー利用が進んで いる外部SaaSやWebアプリケーションも相変わらず活発だ。問題はこれらを安全に効率よく、しかもROIを考えて運営するためにはどうすれば良いのかだ。Oktaソリューションはそのひとつの回答である。このようなアプローチは、2年前、Sunが提唱していたCloud Portalに始まり、連邦政府の始めたクラウドサイトAppsApps関連記事)にも見ることが出来る。Appsでは専用認証システムによるSSOだけでなく、外部プロバイダーとの契約条件や支払い方法なども統一されている。ただ、これは連邦政府(ないしは大企業)だから出来ることだ。一般企業においては、基本機能として、ユーザー向けのアプリケーションメニューとSSO機能の整備、IT部門には社内外全体のアプリケーションを管理する仕組みを作り出すことが急務である。また、 OneLoginの提案するプロバイダーのログインプロセスへの新しい試みも興味深いし、CloudGateのHostingも今後、どの程度伸びるか注目に値するだろう。

2011年4月13日水曜日

統合モニタリングを目指すNimsoft

今回はNimsoft(現CA傘下)の統合モニタリングについて紹介しよう。
Nimsoftはオンプレミスからクラウドまでをカバーする総合システムだ。同社はモニタリングベンダーとして、1998年、スエーデンのオスロで旗揚げ、 2004年、米ディストリビュータと統合してシリコンバレーにやってきた。

◆ 統合モニタリングアーキテクチャー(Unified Monitoring Architecture)
2009年、Nimsoftは事業拡張のためCittioからNetwork DiscoveryやTopology Mapping、RCA(Route Cause Analysis)などのIP-Intellectual Property (知的財産)を取得、これによって大きく成長し始めた。Nimsoft製品をひとことで説明すると、「クラウド固有の問題に焦点を当てているCloud Management製品と、きめ細かな監視が可能なオープンソース系のモニタリング製品を統合」したものだと思えば良い。このため、一部アナリストからは、システム運用管理分野で、CAやBMC、HP、IBMに次ぐ製品として注目されていた。この点を評価し、2010 年3月、CA Technologiesが同社を買収した。CAは、周知のようにシステム運用管理のCA Unicenterで名を馳せ、現在はIT Management Solutionsとして、バックアップ&リカバリーからサービスマネージメントまで、幅広いソリューションを提供している。このような環境から、一時はCAの製品群にNimsoftがマージされるのではないかと思われたが、現在のところそれはないようだ。Nimsoftの経営陣はほとんど変わらず、買収後も共存するEMCとVMwareの関係に似ている。

さて、同社の提供するNUM(Nimsoft Unified Monitoring)に話を進めよう。
NUMは導入企業の社内外のITリソースを統合的に監視する。社内にあっては、オンプレミスの機器類やPrivate Cloud、社外はAWS、Windows Azure、Salesforce.com、Google App Engine、Rackspace、SoftLayer1&1EN*KIなどの多様なPublic Cloudを監視する。


NUMを構造的に見ると、下図のように3層となっている。
中央がNUMの全体をコントロールするApplication Layer、つまり、本体エンジンだ。
下段はNimsoft Probeと呼ばれるData Collection Layer、上段は採取データを整理してDashboardやReportとして表示するPresentation Layerである。実際のデータ収集をするNimsoft Probeは、自営センター機器や搭載されているOS、Databaseなどを監視する“Datacenter”部、VMwareやWindows Hyper-V、Citrix/Xen、さらにはSolaris ZoneやIBM Power VMの仮想化技術とインターフェースしてデータを採取する“Virtualization”部、AWSやGoogle、Rackspace、 Salesforceなど外部クラウドやWebアプリケーションをモニタリングする“Cloud & SaaS”部等から構成されている。

このNUMを構成する3つの層には、同社独自のインターフェース(Unified Monitoring API)があり、これを利用することでクラウドプロバイダーは、彼らが開発した運用システムと連携させて総合的な運転を実行したり、3rd Partyでは独自ソフトウェアを開発して提供することができる。


◆ 望まれる運用管理とは
以上のように、統合モニタリング環境はユーザーにとってもクラウドプロバイダーにとっても魅力的なものだ。企業ユーザーでみれば、Private Cloudの運用だけなら、VMwareやCitrixなどの仮想化技術ベンダーが提供する運用管理で十分だが、実際にはそうは行かない。多くの米企業の動きをみると、第1段階で ①自社データセンターに仮想化技術を導入し、次に ②AWSなどのPublic Cloudを試用した。これによってクラウドの有用性を理解し、現在は ③Public Cloudとオンプレミス(含む仮想化)の混用の状態か、一部でPrivate Cloudの導入が始まったところだ。ここでのポイントは、Publicとオンプレミス(含むPrivate Cloud)がハイブリッドとなり、これをどうコントロールするかという点だ。「タテとヨコの戦い」で述べたRight ScaleやNimbulaなど、さらには「成功するかマルチハイパーバイザー管理」に出てくるAbiquo、Convirture、Enomalyなど多くのベンダーが参入している理由はここにある。

◆ も うひとつの課題
もうひとつ、クラウドプロバイダーなど大型データセンター運用で大事な要件は、物理環境と論理環境の統合だ。「運用管理領域の改善は進むか」で述べたように、この分野には、現在、2つの勢力がある。IBM Tivoliを筆頭にHPやCA、BMCなど各種サーバーやネットワークなどの物理環境を得意とするもの。もうひとつは、仮想化ベ ンダーが開発提供してきた製品群で、論理的な仮想マシンの作成・実行などの運用に焦点が当てられたものだ。大型データセンターでは、この2つを使い分けながら運用し、これに加えて一部をオープンソース系のNagiosやopenNMS、Zenoss、GroundWorkなども併用している。この煩わしさは想像を超える。今回、紹介したNimsoftのUnified Monitoringなどの利用によって、このような課題は部分的に解決される。さらにもう少し進めば、クラウド利用の企業も、提供するプロバイダーも効果的な運用が出来る時代になるだろう。

2011年4月4日月曜日

クラウドプレイヤーのポジション分析(2) 
             -Magic Quadrant for Analysis-

前回に続き、クラウドプレーヤーのポジション分析を見ていこう。
分析にあたってMagic Quadrantでは利用形態と市場を以下のように定義している。

◆ 利用形態
クラウドユーザーの利用形態は以下の3つだ。

=Self-Managed IaaS=
セルフマネージの利用形態では、まず自己設定 (Self-Provision)や自己運用(Self-Manage)が前提だ。つまり自分でクラウドにかかる殆どの処理出来ること。その上で機器購入やデータセンター利用の代わりとしてクラウドを使う。大方は開発やテストが目的だが、中には自動化や拡張性、俊敏性などを利用した複雑なアプリケーションの本番もある。

=Lightly Managed IaaS=
次に、ライトマネージの利用形態では、ユーザーはSelf-Managed IaaSと同様の機能を要求するが、運用に関しては全を実行することを望まない。通常、彼らのスキルはパッチレベルであり、難しいセキュリ ティー管理などは用意されたメニューを利用する。これら幾つかの運用サービスは近い将来自動化される見通しだが、現時点では手作業であり、もっと も一般的な利用シナリオである。

=Complex Managed Hosting=
この利用形態は典型的な従来型Webホスティングユーザー向けで、彼らは複雑な要求を持っている。例示すると、高度な企業Webサイトや会話型マーケティング、さらには
ダイナミックアプリケーションポータルやコラボレーション、サプライチェーン、eコマース、SaaSなどだ。しかし、これら全てをサポートできるところははない。ニッチプレイヤーには優れたものもあるが部分的であり、実際にはどこが自分の要求にマッチするのかを見極めることさえ難しい。


◆ 市場の定義
次 に市場についての定義は以下のようだ。

=Colocation=
ここで言うコロケーションとは、データセンターの場所(Facility)置きだけでなく、関連するWANやLANなどの機器も含まれる。

=Dedicated Hosting=
ファシリティーとネットワーク、そして専用サーバー(Dedicated Server)を用意し、加えてマネージド&プロフェッショナル・サービスをオプション(下記参照)として提供する。

=Utility Hosting=
これにはファシリティーとネットワーク、ユティリティーコンピューティング・プラットフォーム が含まれる。このプラットフォームはハイパーバイザーによる仮想化などで他ユーザーと共有され、オンデマンド利用ができる。また、往々にして専用サー バー(Dedicated Server)と共に提供され、Dedicated Hosting同様、サービスオプションがある。

=Cloud IaaS=
ユティリティーホスティング同様にファシリ ティーとネットワークを含み、オンデマンド利用で、専用サーバー(*1)か仮想型(*2)が選択出来、共にマルチテナントの弾力性のあるプラットフォー ム(Elastic Platform)である。ここで弾力性とは、オンデマンドで自由にスケールアップ/ダウンができることを言い、この仮想データセンターを管理するGUI かAPIが提供される。勿論、サービスオプションが提供される。
                 *1)Hosted Private Cloudを指す、 *2)所謂、Public Cloudを指す

サービスオプション(マネージド&プロフェッショナル)
  1. サーバーOSの管理
  2. Webサーバー、APサーバー、DBサーバーなどインフラソフトの管理
  3. バックアップ&リカバ リーを含むストレージの管理
  4. セキュリティーの管理
  5. APデリバリーコントローラーなどネットワーク機器の管理
  6. アーキテクチャー、キャパシティープランニング、パフォーマンステスト、セキュリティー監査、データセンター移行など、ホスティングに関するプロフェッショナルサービス

◆ プロバイダーの強みと留意点
このような条件をベースとした各プロバイダーの概要と評価、推奨は以下のようになる。
(アルファベット順)

=Amazon=   
AmazonのクラウドIaaSはXen ベースで、自動化と廉価なコモディティープラットフォームというビジョンを純粋に追求したものだ。利用上、契約のコミットは要らないが、一方でマネージドサービスやコロケーション、専用サーバーと組み合わせるオプションがないので、本格的な利用にあたっては注意が要る。
Recommended Use(推奨適用例);
-Scale Out Computing
-Self Managed IaaS for Test and Development

=AT&T=
AT&Tはグローバルキャリアのホスティングビジネスリーダーとして、長い経験(2006年、当時最大手だったASPのUSiを買収)を持ち、コロケーション、専用サーバーによる
マネージドホティング、VMwareベースの仮想ホスティングSynaptic Hosting、クラウドIaaSはSynaptic Compute as a Service(CaaS)を提供。AT&Tはクラウドに強力なコミットメントをしているが、セールスとサービス/サポート間の融通性に欠ける面が見られる。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS for Web-based Applications
-Lightly Managed IaaS
-Complex Managed Hosting
-Enterprise Application Hosting

=Carpathia Hosting=
Carpathiaは小柄ながら独立系Webホス ティングとして、中規模市場と政府系に絞ったCitrix XenベースのクラウドIaaS、コロケーション、マネージドホスティングを提供。強みは政府系のセキュリティー規格やコンプライアンスに準拠していること。ただ、同社のAPIはユニークなため3rdパーティとの互換性が低い。
Recommended Use;
-Solution that have Significant Compliance Requirements,
 Especially in the Public Sector
-Managed Hosting with Significant Cloud Component

=CSC=
大手SIerのCSCはアウトソーシ ングに強みを持つ。同社のクラウドIaaSはVMwareベースで多様なサポートを幅広いユーザー層に提供、開発やテスト環境には定評のあるSkytapも提案。課題はサポート力の強化と先進的なポートフォリオの実績作りである。
Recommended Use;
-Enterprise Application Hosting
-Cloud IaaS, Especially Test and Development

=Datapipe=
Datapipeは小さいけれど、コロ ケーション、マネージドホスティングで急速に伸びているWebホスティング企業だ。それらの経験をAmazon上でマネージドサービスとして開始し、またVMwareベースのプライベートクラウドStratoSphereも提供している。同社自身はパブリッククラウドを提供していない。
Recommended Use;
-Mainstream Managed Hosting
-Amazon IaaS as a Managed Service

=GoGrid=
GoGridは小型独立系プロバイダーで Xenベースの低価格なパブリッククラウドを運用、他にプライベートクラウドやマネージドホスティング、コロケーションも提供している。
同社のク ラウド&ホスティングのハイブリッドには定評があるが、一方でエンタープライズ分野ではVMwareが強くvCloud Directorのサポートを望む声がある。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Lightly Managed IaaS
-Managed Hosting where there is a Significant Cloud Component
 to the Solution


=Hosting.com=
Hosting.comも小型独立系で、 VMwareベースのパブリック/プライベートIaaSとコロケーション、マネージドホスティングなどを提供。ターゲットは中小企業市場で、自動パッチ管理や災害対策などのオプションがある。現在、上位市場に移行中であるが米国外にデータセンターはない。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Lightly Managed IaaS
-Simple Managed Hosting
-Cloud-based Disaster Recovery

=IBM=
IBMは一部でコロケーションやマネージドホスティングを提供。クラウドIaaSはユースケース別に対応。同社運営の開発テスト用クラウドサービスではRationalやTivoliが統合されている。またComputing on Demandサービスではスーパーコンピュータのクラウド需要に対応しているが、現時点では全体的にクラウドIaaSよりSaaSなどのソリューションに力点を置いている。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS for Test and Development,
 or High Performance Computing
-Very Complex Managed Hosting
-Enterprise Application Hosting

=Joyent=
Joyentは小型独立系プロバイダーながら、独自開発スタックによるSolaris ContainerベースのパブリッククラウドSmartMachinesを提供(WindowsとLinuxはKVM経由)。同社はエンジニアリングに定評があり、サポートは優秀、ただ規模的な制限がある。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS for Web-based Applications,
  Particularly where Scalability is Important.

=Layered Tech=
Layered Techも同様に小型独立系。XenベースCA-3TeraのAppLogicを採用したクラウドIaaSを提供 し、ターゲットは中小企業。 AppLogicは基本的にLinuxの仮想化のみだが、VMwareやHyper-Vについてはマネージドホスティングとして対応している。
Recommended Use;
-Simple Managed Hosting

=Media Temple=
Media Templeは小型独立系のWebホスティングとして、Parallelsの仮想化をベースにしたクラウドIaaSを提供、主にWebコンテンツに力点をおいた低価格エントリークラウドとして定評がある。
Recommended Use;
-Marketing Micro-sites where low-cost Elastic Scalability is a Requirement

=NaviSite=
独立系のNaviSiteはVMware ベースのパブリッククラウドNaviCloudを提供、中小企業のアプリケーションホステイングに焦点を置きつつ、専用サーバーから徐々にNaviCloudへ移行、クラウド利用のマネージドアプリケーションサービスを提供している。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Managed Hosting
-Enterprise Application Hosting

=NTT Communications=
NTT Communicationsはグローバルキャリアとして大企業向けにコロケーションや
マネージドホスティングを提供。プラットフォームの統合によって、NTT America、NTT Europe、NTT Asiaの壁がなくな り、多国籍企業向けサービスは好転の模様、クラウドはVMwareベース。投資先のOpSourceにはパブリッククラウドがある。
Recommended Use;
-Complex Managed Hosting, where a Global Data Center Footprint
and Network are important Requirement

=OpSource=

OpSourceも小型独立系。これまではISV向けにアプリケーションをSaaS化して提供するプロバイダーとして市場を開発し、このところはエンタープライズ市場向けにIaasクラウドも提供。さらにクラウドのOEMパートナーの開発にも乗り出している。
Recommended Use;
-Managed Hosting for SaaS Providers
-Self Managed IaaS

=Rackspace=
独立系大手ホスティングのRackspaceはマネージドホスティング市場のリーダーの1社。クラウドでもマネージドホスティングを得意とし、XenベースのクラウドIaaS (Cloud Servers)、PHPや.NET向けなどのPaaS(Cloud Sites)、e-Mailホスティング、SharePointホスティング、クラウドストレージ(Cloud Files)、一般向けにはクラウドベースのバックアップ(JungleDesk)を提供。そして、NASAと連携してオープンソースのOpenStackをスタートさせている。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Managed Hosting, Especially where Customer Service is a Priority

=SAVVIS=
独立系最大手ホスティングプロバイダーのSAVVISは、コロケーション、マネージドホスティングに絶大な実績を持つ。同社のプロダクト/サービス・ポートフォリオは幅広く、VMwareベースのクラウドIaaS(Symphony)にも適用、ターゲットはエンタープ ライズ市場。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Complex Managed Hosting
-Enterprise Application Hosting


=SoftLayer=
小型独立系SoftLayerはセルフマネージメント型のホスティングやCitrix Xenベースのパブリッククラウド(CloudLayer)、VMwareのプライベートクラウド(Virtual Enterprise Rack)を提供。昨年、ThePlanetを買収して、コロケーションやマネージドサービスも開始した。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Self Managed Hosting

SunGard=
SunGardは従来型アウトソーシングプロバイダーの大手として、ビジネス継続計画
(Business Continuity Plan)ソリューションに力を入れ、これらを活かしたコロケーションやマネージドホスティング、さらにVMwareベースのクラウドIaaSを提供している。
Recommended Use;
-Enterprise Application Hosting

=Terremark Worldwide=
Terremark Worldwideは独立系大手ホスティングプロバイダーとして、コロケーション、マネージドホスティング、そしてデベロッパー向けパブリッククラウドのvCloud Expressを提供。同社はVMware との資本関係から重要なパートナーであり、vCloud Datacenterの認定プロバイダーでもある。公共向けやデフェンスなどの市場を得意としている。
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Complex Managed Hosting

=Verizon Business=
同社はVerizonグループの企業ビジネスを担当、コロケーションやマネージドホスティングで多く の実績を持つ。企業向けクラウドIaaSはVMwareベースのCaaS(Computing as a Service)を提供。同社もVMwareのvCloud Datacenter認定プロバイダー。
(2011 年1月末、Terremarkの買収を発表)
Recommended Use;
-Self Managed IaaS
-Lightly Managed IaaS

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以 上、米国市場には多様なクラウドプロバイダーがある。
仮想化技術ではXenとVMwareが伯仲し、Solaris Containerもあれば、ParallelsやAppLogicもある。ターゲットユーザーも大企業から、中小企業向け、さらにデベロッパー向けなどに細分化、使い方もセルフマネージメントから複雑なコンプレックス・マネージドホスティングまである。このような多様化によってユーザーの要求を満たさな ければ生きられない。これが現実だ。そして、VerizonによるTerremarkの買収劇が今後も起こることは間違いない。これからが最後の生き残り を賭けた戦いである。

2011年3月17日木曜日

クラウドプレイヤーのポジション分析(1) 
          -Magic Quadrant for Cloud Player-

Gartnerより出された興味ある報告「Magic Quadrant Cloud Computing」がある。
この報告書の冒頭、クラウド のインフラサービスは、コスト削減や利用が簡便で俊敏性があることなどから、米国では主にWebホスティング市場で成長していると指摘。
過 去5年間、米ホスティング市場は専用サーバーからオンデマンドや使用量払いなどへと進み、さらに、この2年間はクラウドの登場で業界地図が変わり始めた。 報告書では本年末には、クラウド利用によるWebホスティングは、全ホスティング市場の25%に達すると予測する。

◆ 2つのタイプのクラウドユーザー!
クラウドの登場によって、この市場に は従来型のホスティング業者以外に、大手通信事業者(Carriers)や受託業者(Outsourcer)などが相次いで参入した。ユーザーには2つのタイプがある。ひとつは伝統的なWebホスティングの顧客層だ。彼らは既にWeb
サイトやアプリケーションを持ち、より安価なホスティングをクラウドに期待している。
もうひとつのタイプはクラウドを使うことで、自分たちのビジネスに何が起こるのかに興味があるグループだ。後者のグループは、 パイロットシステムから始め、少しづつクラウド化する傾向にある。

◆ 従来型を追うクラウド型、そしてホスティングは統合する!
しかしながら、米Webホスティング市場は成熟し、プロバ イダーの完成度(Software Stack、Operational Level、Technical Support etc)は高い。対して、クラウドIaaSは始まったばかりだ。そして、これまでのホスティングアーキテクチャーDHA(Dedicated Hosting Architecture)に近づくべく、4半期に数度の機能アップが行われている。それでも現時点で見れば、まだ殆どのプロバイダーでは、異なるプラッ トフォーム上で、従来型とクラウド型の2つを提供している。しかし今後、5年程度でこの状況は変わり、それらはひとつのプラットフォームに収束されるだろ う。この2つには本質的な技術差はないからだ。ただプロバイダーにとって、クラウドIaaSの導入、そして2つの統合が、経営上、重荷になっていることは 否めない。

◆ マジッククォードラント分析(Magic Quadrant Analysis)
マジッククォードラント分析とは、Gartnerが市場分析の際に用いる手法で、4つの領域 を2つのベクトルで見分ける方法である。発表されたクラウド分析は下図のようになった。
ここで4つの領域は、リーダー(Leaders)、チャレ ンジャー(Challengers)、ビジョナリー (Visionaries)、ニッチプレーヤー(Niche Players)だ。そして、リーダーとは、この市場でエンタープライズ向けの実力があり、技術革新に余念がなく、幅広いユーザーを持っていること。チャ レンジャーは良質のサービスを提供しているが、従来型のWebホスティングプロバイダーとして市場に引きずられ、クラウドは後追いがちとなっているプロバ イダーだ。ビジョナリーとは、先頭を走るものとして、革新的な技術やアプローチを採用し、ロードマップを示してリーダーを目指すが、実力の証明はこれから である。ニッチプレーヤーは限定されたプロダクトを提供するスペシャリストで、大手とは違い、どこかの領域で突出しているプレイヤーだ。クォードラント分 析の2つのベクトルの縦軸は「実行能力(Ability to Execute)」、横軸は「ビジョンの完成度(Completeness of Vision)」を示す。以下がその結果である。


ここか らは、私見をもとに各領域についてのコメントを試みる。

=リーダー 領域=
この領域では、総合的にデータセンター最大手のSAVVISが優れ、Rackspraceは同社のRackspace CloudOpenStackな どで健闘、また、AT&T(2006年に買収したUSi -現エンタープライズ部門)やVerizon BusinessTerremark Worldwideなど実行力のある大手がひしめいている。つまり、キャリア大手のAT&TやVerizonなどは得意のIPネットワー ク技術を生かし、大手データセンターのSAVVISやRackspace、Terremarkは専門スタッフによる高品質サービスが特徴だ。ここで Terremark Worldwideは今年1月末、Verizonに買収されて傘下となっったが、まさに2つの特徴の統合である。
そして、 キャリアとデータセンターの両グループに共通するのは“マネージドホスティング(Managed Hosting)”のオプションがあることだ。この有料サービスを受ければ、ユーザーはソフトウェアのパッチ/バージョンアップ、データベースのバック アップ/リカバリーなどの煩わしい作業から開放される。もちろん、彼らの中にはAmazonなどと同様のセルフサービス型クラウドを提供しているところも あるが、今のところAmazonの場合はセルフサービス型のみであり、この点で一線を画している。

=ビジョナリー領域=
クラウドに関する大きなビジョンを持つ筆頭はもちろ んAmazon(AWS)だ。
Amazon の狙いはデベロッパー向けのコモディティー化したクラウドIaaSの推進である。Amazonは初期のIaaSから抜け出て、高速コンテンツデリバリーCloudFront、 メッセージキューSimple Queue、最近ではWebアプリケーションの自動セットアップBeanstalkや大量eメール処理Simple Emailなどもリーリス、徐々にPaaSに軸足を移しつつある。この領域で続くのは、オープ ンソースを徹底的に使いこなして、LinkedInやMLB、Walt Disneyなどの大型ホスティングを手がけてきたJoyentだ。Facebookも初期段階は 同社にホスティングしていたというから実力は理解できるだろう。同社のクラウドはSolaris Containerを使った仮想化で、OpenSolaris、Javaを全面に出したSunベースの唯一のプロバイダーである。さらに、ISP親会社 (ServePath)のクラウド部門として、初期からWindowsサポートを打ち出したGoGrid、エンジニアリング業務に強い大手 SIビジネスのCSCなどが続き、新 たな活路を求めるIBMも かろうじてここに入っている。

=チャレンジャー領域=
こ の領域のチャレンジャーたちは、基本的にホスティングで成長し、その経験をクラウドに活かしているプロバイダーだ。例をあげると、アプリケーションマネー ジメントを武器にしたNaviSite、 ASP(Application Service Provider)時代に培ったISVチャネルを活かしてISV向けSaaSプラットフォームを提供するOpSource、ホスティングで急成長し てきた経験をプライベートクラウド構築と他社パブリックに生かすDatapipe、BCP(Business Continuity Plan)に特徴を持つ大手データセンターのSunGardな どである。

=ニッチプレイヤー領域=
もっとも個 性的なのはニッチプレイヤーたちだ。例えば、Layered TechはCA-3TeraのAppLogic適用のクラウドを運用しているし、Media Templeは ParallelsのVirtuozzo Containersを採用している。前者はLinuxの仮想化に特化し、後者はOSの仮想化技術(1つのOSの上に複数のセキュアーな仮想空間を作成) で、これによって廉価なWebホスティングが可能となる。次にCarpathia HostingSoftLayerの2社は、小柄で一般に知名度 は低いが優れものである。両社共にCitirix Xenベースのクラウドを提供し、Carpathiaは公共関連市場に特化、SoftLayerはセルフマネージメントに特徴を持つ。そして両社はパート ナーと共に連邦政府のクラウドポータルApps.govのIaaSサービス提供企業候補に選ばれた。同様にHosting.comも小規模ながら VMwareのvCloud Intiativeのメンバーだ。NTT CommunicationsVerioの子会社化やOpSourceとの資本関係を持つが、日本市場ではなく、米国市場ということでニッチ 扱いとなっている。次回は各社を個別に見てみよう。

2011年3月4日金曜日

Amazonのクラウド売上げは$500~600M?
          -ついにAWS Tokyoセンターがオープン-

Amazonから2010年の速報値が発表になった。
正式な会計報告書は4月中旬となるが、今回の速報とこれまでの会計報告書から同社のクラウド AWS(Amazon Web Service)の売上げを分析してみようと思う。ただ、残念ながら、Amazonは詳細な商品別売り上げは公表していない。ここでの分析はあくまでも推測である。

◆ 会計報告書から解ること
これまでの報告書に従えば、Amazonは、販売地域を北米大陸(North America)と
その他(International)に区分し、合計値(Consolidated )を総売り上げとしている。そして、地域売上げには、①メディア(Media)、②エレクトロニクスと物販(Electronics and General Merchandise)、③その他(Others)の3つがある。例えば、電子書籍リーダー「キンドル(Kindle)」の購入はエレクトロニクスに、その後のコンテンツ購入は
メディアに計上されるといった具合だ。問題のクラウドAWSは「その他」勘定への計上となる。これには本業のAmazonサイトによる オンライン小売業以外のマーケティングやプロモーション、AWS、他セラーサイト、Amazonクレジットカード(Co-Brand)などが
含まれている。


◆ 「その他」項目を見極める
ここで「その他」の項目に注目すると、2010年度は$953M、2009年度は$653Mだ。
つまり、昨年度のAWS売上げは$953Mが上限で、1㌦82円で換算すると781.46億円となる。 「その他」項目全体では、前年比45.9%の増加だ。問題は、「その他」には前述のようにAWS以外のものが含まれている。この不純物をフィルタリングするために、過去の「その他」データを参考にしよう。AWSのストレージサービスS3が発表されたのは2006年3月、コンピュートサービスのEC2は同年8月だった。しかし、この年は始まったばかりであり、かつ下期にEC2が登場したため、殆ど数字になっていないはずだ。AWSリリース前年の2005年度分の「その他」は$230M、2006年は$283M、さらに遡ると、2004年は$132M、2003年は$111M、 2002年は$87Mとなっている。そこで、AWSリリース以前の「その他」の年平均成長率CAGRを計算すると、2004年($132M)と2005年($230M)の間がほぼ倍増ということもあって、2002-2005年では38.3%、それ以前の2002-2004年は23.2%となる。この数値がフィルタリングには使える。

◆ AWSの売上げが見えた!
ここで仮にCAGR=23.2%を採用して、その後の計算をすると2010年度は$461M、従って、AWSの売上げは約$500M(953-461= 492)となる。右図のピンク線のグラフ推移である。しかし「その他」の多くがAmazonブランド (正確にはCo-Brand)のクレジットカード売上げだと考えると、初期はともかく徐々に落ち着くはずだ。
そこで、もう少し控えめにCAGR=20%としよう。
この場合、2010年度の値は$374M、そして推定AWS売上げは約$580M(=953-374)、右図の青線グラフだ。以上のことから、AWS推定売り上げ額は、$500M~$580Mの範囲と見るのが妥当であろう。邦貨では410億円~475億円(1㌦82円換算)となる。
もちろん、これはあくまで会計情報から読める範囲であり、実際の数値との乖離は否めない。しかし、AWS全体の伸び傾向は確かだ。AWS開始後の2007年以降の「その他」CAGRは、35.3%と大きく、さらに2009年と2010年では45.9%と伸びている。こうなるとAWS売上げは幾何級数的に伸びて、今年度(2011年)は$800Mを軽く超えてくるだろう。

◆ AWS Tokyoセンターがオープン
そして、ついにAWS Tokyoデータセンターが3月3日、オープンした。
新センターでは、一部の機能を除いてAWSのほとんどが提供される。発表内容を知らせるAWSブログによると、日本市場の特徴である高速で低レイテンシーな環境を提供し、さらにセキュリティーやコンプライアンスが絡むストレージの国内設置が可能となる。
まさに新たな時代の幕開けだ。
前掲の会計報告書を良く見ると、今回大きく伸びたのは、米国市場($550M→$828M)の貢献だ。ヨーロッパとアジアなどを含めた国際部門は、2009年が$103M、2010年は$125Mでしかない。ヨーロッパのAWSセンターは、現在、アイルランドのみ。アジアのシンガポールセンターの需要の半分は日本だと聞く。東京を加えてアジアのAWSセンター2つとなった。本年度決算でその効果が出てくるのが楽しみである。

2011年3月1日火曜日

好調なRackspace、そして買収
               -Anso Labs & CloudKick-

Rackspaceの 買収が活発だ。
この背景には同社の好調な営業活動がある。

  Rackspace、2010年度決算
2月10日に発表された2010年度決算では、総売上げ が前年比24.1%増の$780.6M(前年$629.0)となった。うち、ホスティング(Managed Hosting)売上げは17.8 %増の$679.9(前年$572.6)、ユーザー数は19,396社(前年19,304社)と若干の増加だった。一方、クラウド売上げは78.5%増と 大きく伸びて$100.7 (同$56.4)、ユーザー数も11.1万と2009年の7.2万 から54.2%と急伸して絶好調だ。ちなみに、従業員は前年の 2,774人から昨年末には3,262人へ、展開するサーバー数も56,671台から約1万台増えて66,051台となった。

◆ 価格戦略とマネージドサービス
この好調の要因となっているのはその戦略 である。
ひとつは価格(提供インスタンス)の細かさ、もうひとつはサービスだ。
Rackspaceの提供するクラウドはAmazon Web Service(AWS)に比べて、インスタンスの種類が多い。AWS最小のSmall Instance(32ビット)は$1.7GBのメモリーと160GBのディスクで¢10($0.10)だが、Rackspace Cloudでは、これ以下にメモリーが256MB、512MB、1GBと3つの仕様(全て64ビット)がある。最小なら256MBのメモリーと10GB ディスクで¢1.5($0.015)-月額$10.95、つまり、1ヶ月使ってたった1,000円だ。さらにEC2のSmallとLargeの間に2つ、 LargeとExtra Large間に1つ、Extra Largeの上に1つと多様なインスタンスが揃っている。昨年9月にAmazonが発表したMicro Instanceはこれへの対抗と考えてよい。サービス面でもAmazonが対応していないホス ティング同様のManaged Service、3rd Party Software Support、ホスティングで使用するDedicated Serverとのハイブリッドなどが武器だ。

◆ Anso Labsの買収とOpenStack
そして2 月11日、RackspaceがAnso Labsを買収すると発表した。
Anso Labsは同社がNASAと進めるクラウドインフラOpenStackのキーコントリビュー タである。実際のところ、 NASAのクラウドNebulaのCompute Engineは、当初予定したEucalyptusから自主開発のNovaに切り替えた。このデザインと開発に携わったのがAnso Labsだ。買収の狙いははっきりしている。OpenStackプロジェクトのガバナンスだ。昨年夏にスタートしたOpenStackには、 RackspaceがStorage Engine、NASAがNovaで開発したCompute Engineを提供している。その後、昨年10月に第1版=Austin=、今年2月始めには第2版=Bexar=がリリースされた。この間、第2版のた めのDesign Summitが盛況のうちに開かれたが、期待が大きい分盛り込む機能も多く、その絞込みにはかなりてこずった。つまり、プロジェクトをどのように運営して 行くかという文化がまだ出来ていないのだ。Anso Labsへの期待はここにある。特に今年はOpenStackの実戦適用の年となる。
そのた めの第3版=Cactus=のリリースをどのように円滑に行うか、これが上手く行かなければプロジェクトは成功しない。Anso LabsのCEO Jesse Andrews氏は、ソシアルブラウザーFlockの 元リードアーキテクト、COOのSoo Choi女史は、コンサル企業Booz Allen Hamiltonの元役員で大規模プロジェクト管理のプロである。この2人がAnso Labsの共同創設者だ。さらにNebula Nova開発のリードエンジニアはAnso LabsのVishvananda Ishava氏だ。彼らがこれまで以上、積極的にプロジェクトに関与すればOpenStackは離陸するだろう。
しかしこの買収で OpenStackの運営がどうなるのか、心配がないわけではない。
プロジェクト最上位のOpenStack Architecture Boardは4人で構成され、これまではRackspaceから2人、Anso Labsから1人、Citrixから1人だった。この買収で3/4がRackspace側の人間となった。同様に9人構成のProject Oversight CommitteeもこれまではAnso Labsが3人、Rackspaceから5人、Citrixから1人だったが、今度は8/9がRackspace側だ。買収発表後、Rackspaceは プロジェクトへの説明を繰り返し、この買収はプロジェクトへの貢献のためだとしているが、それでもメンバー構成には今後一考がいるであろう。

◆  Cloud Kickの買収
Anso Labsに先立ち、Rackspaceは、昨年12月16日、クラウドサーバーマネージメントのCloud Kickも買収した。 Cloudkickは
複数のクラウドやオンプレミスのサーバーを一元的に管理できるサービスである。対応するクラウドはAmazonやlinode.comGoGridSoftLayerSlicehost、 Rackspace、RimuHostingVPS.NETの8社だ。これらのクラウド上のサー バーをダッシュボードでモニタリング(Server Name & Status、IP Address、CPU、Memory、Disk etc)したり、追加/削除などの管理ができる。Cloud Kickのモニタリングの仕組みは、サポートするクラウド提供の運用管理APIを利用して行うが、これも前回述べたRightScaleのようにバラバラ な仕様を繋ぎ合せるのは容易なことではない。
このようなモニタリングでは、オープンソースのNagiosHypericGround WorkZenossなどが有名だが、差異はアクセス方法と狙いだ。NagiosなどはSNMP (Simple Network Management Protocol)など多様なネットワークプロトコルを用いて、ネットワークシステム全体を詳細にモニタリングする。一方Cloud KickはクラウドAPIを用い、運用の実務管理という視点から、ひとつのダッシュボードで全てのサーバーが色分けされて管理ができる。かつ、オンプレミ ス監視用にはDebian、Ubuntu、CentOS/RHEL、Fedora、Gentoo、Windowsのエージェントも用意されている。

◆  目指すはハイブリッドクラウドマネージメント
Rackspace によるCloud Kick買収はAmazonへの対抗だという声もある。
確かに、この買収に先立ち昨年12月3日、AmazonはCloudWatchの機能追加を発表した。この追加でEC2やEBS(Elastic Block Store)、RDS(Relational Database Service)、ELB(Elastic Load Balancer)などのメトリックにアラームやアクションの設定が可能となり、EC2監視の一部も無償化となった。勿論、CloudWatchはAWS だけだが、追う立場のRackspaceはそれでは不十分である。この買収でマルチクラウドをカバーし、その中にはRackspace Cloudだけでなく、傘下のSlicehost(2008年に買収)も含まれている。そして、自社のホスティングを加えたハイブリッドクラウドのマネー ジメントも視野に入った。

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Rackspaceの動きは好調な営 業活動に支えられている。
同社のクラウドの伸びは前年比80%増に近い。Amazonの伸び(1月末速報)も大きく、
(クラウドの個別値は公表されていないが)、推定(当方の試算)では前年比45%程度の増加と見られる。

今回報告した2つの買収は、Rackspaceにとって大きな意味を持 つ。
Anso LabsはOpenStackの実用化に向けたプロジェクトの補強であり、今後の運営が注目だ。OpenStackは通常のオープンソースプロジェクトと は違う。時間に余裕がないからだ。何としても年内に、新たなクラウドインフラの地位を築きあげなければいけない。もうひとつのCloud Kickの買収、これは即戦力としての活用が期待されている。
いよいよクラウドは本物になってきた。